妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
王はわざわざこんなことで自分を待っていたというのだろうか。ただひと言、張尚宮を通じて命じれば済むことなのに。
「どうした、震えているのか?」
王に指摘され、清花は我が身の身体が小刻みに揺れていることに気付く。
そう、怖いのだ。いつになく上機嫌で、晴れやかな表情のこの王が怖くてたまらない。
「清花、何故、そなたは女官などになったのだ? よく働くし、料理も上手い。そなたほどの娘なら、良い妻、母となれたであろうものを」
王らしくない極めて常識的な物言いに、清花は眼を見開いた。
「殿下(チヨナー)、恥を申し上げるようでございますが、私の実家は貧しく、その日を暮らすのがやっとのような家でございました。元々豊かではなかった暮らしは、父が亡くなり、更に困窮したものになったのです。私が女官として奉公に上がれば、母にかける負担も少しは軽くなるだろうと子ども心に考えました」
ありのままを正直に言うと、王は幾度も頷いた。
「なるほど、そなたの父は何をしていたのだ?」
「銀細工職人にございます」
その応えには、王はかなりの興味を引かれたようだ。
「ホウ、銀細工の職人か。腕の方は確かだったのか」
普通なら失礼な問いだが、王たる人ならば当然の許される質問だろう。
清花は相手が〝暴君・気違い〟と呼ばれている王であることを、いつしか忘れていた。
「我が父ながら、素晴らしい職人だったと存じます」
「どうした、震えているのか?」
王に指摘され、清花は我が身の身体が小刻みに揺れていることに気付く。
そう、怖いのだ。いつになく上機嫌で、晴れやかな表情のこの王が怖くてたまらない。
「清花、何故、そなたは女官などになったのだ? よく働くし、料理も上手い。そなたほどの娘なら、良い妻、母となれたであろうものを」
王らしくない極めて常識的な物言いに、清花は眼を見開いた。
「殿下(チヨナー)、恥を申し上げるようでございますが、私の実家は貧しく、その日を暮らすのがやっとのような家でございました。元々豊かではなかった暮らしは、父が亡くなり、更に困窮したものになったのです。私が女官として奉公に上がれば、母にかける負担も少しは軽くなるだろうと子ども心に考えました」
ありのままを正直に言うと、王は幾度も頷いた。
「なるほど、そなたの父は何をしていたのだ?」
「銀細工職人にございます」
その応えには、王はかなりの興味を引かれたようだ。
「ホウ、銀細工の職人か。腕の方は確かだったのか」
普通なら失礼な問いだが、王たる人ならば当然の許される質問だろう。
清花は相手が〝暴君・気違い〟と呼ばれている王であることを、いつしか忘れていた。
「我が父ながら、素晴らしい職人だったと存じます」