妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
清花は懐から布でくるんだ小さな包みを取り出し、開いた。中には父が遺した簪が入っている。梅の花を象った小さな簪だが、小さな梅は今にも匂い立ちそうなほど精緻で見事に再現されている。
「見せて貰っても良いか?」
王の言葉に、清花は簪を差し出した。
簪を手にした王は陽の光にかざすようにして、しげしげと簪を眺める。
「確かに見事な細工だ。王室出入りの御用職人だとても、これほどの腕を持つ者は滅多とおるまい。そなたの申すとおり、そなたの父は素晴らしい職人であったのだな」
納得したように言い、王は簪を清花に返してよこした。
「そなたが羨ましい。清花、予は父上(アバママ)と一緒に遊んだ想い出など何一つとしてないのだ。父上の傍らには、いつも着飾った側妾たちやその子どもたちがいて、予の居るべき場所はどこにもなかった。母上(オバママ)はご自分の身の不遇を嘆くばかりで、我が子のことなど顧みようともなさらぬ。そなたのように貧しくとも、家族が肩寄せ合い、慈しみ合って暮らせる者たちが羨ましい」
王の整った面には深い孤独の翳りが落ちていた。初めて逢ったときには、荒んだ生活に疲弊し切って見えたが、今日の王は二十歳の若者らしい素顔を見せていた。
清花は手にした簪を握りしめた。
「チ、殿下(チヨナー)。これを」
二つの手のひらで握りしめた簪を王の前に差し出した。
「見せて貰っても良いか?」
王の言葉に、清花は簪を差し出した。
簪を手にした王は陽の光にかざすようにして、しげしげと簪を眺める。
「確かに見事な細工だ。王室出入りの御用職人だとても、これほどの腕を持つ者は滅多とおるまい。そなたの申すとおり、そなたの父は素晴らしい職人であったのだな」
納得したように言い、王は簪を清花に返してよこした。
「そなたが羨ましい。清花、予は父上(アバママ)と一緒に遊んだ想い出など何一つとしてないのだ。父上の傍らには、いつも着飾った側妾たちやその子どもたちがいて、予の居るべき場所はどこにもなかった。母上(オバママ)はご自分の身の不遇を嘆くばかりで、我が子のことなど顧みようともなさらぬ。そなたのように貧しくとも、家族が肩寄せ合い、慈しみ合って暮らせる者たちが羨ましい」
王の整った面には深い孤独の翳りが落ちていた。初めて逢ったときには、荒んだ生活に疲弊し切って見えたが、今日の王は二十歳の若者らしい素顔を見せていた。
清花は手にした簪を握りしめた。
「チ、殿下(チヨナー)。これを」
二つの手のひらで握りしめた簪を王の前に差し出した。