テキストサイズ

妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第2章 恋

 その面に浮かんだ微笑は清花がハッとするほど優しげものだった。
「そなたはつくづく良い家庭で育ったのだな。そなたを見ていると、そなたの両親がどのような人であったのかが予にまでよく判る。清花、昨日は祖母上も殊の外、歓ばれていたぞ。よほど嬉しかったのであろう、まるで一日で十年も若返ったように見えた」
 では、これは、そなたの気持ちとして遠慮なく貰っておこう。王はそう言うと、差し出された簪を受け取り、大切そうに袖に入れた。
 だが、次の瞬間、清花の耳に飛び込んできたのは、あまりにも意外な科白だった。
「清花、予はそなたのような女を妻に迎えたい。予の想いを受け容れて、後宮に入ってくれ」
「え―」
 清花は言葉を失い、身を強ばらせた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ