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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第2章 恋

 本当なら、清花は張尚宮の命を生菓房に伝えるだけで良かったのに、彼女は手間暇を惜しまず祖母のために食の進みそうな献立を考え、料理を作った。口にすれば容易い何でもないことのようにも思えるが、並の者ではできないだろう。
 あの少女―具清花だからこそ、できたのだ。
 自分は、その心に惹かれ、惚れた。
 清花の優しさに魅了されたのだ。
 初めて出逢ったときは、まだ清花の外見でしか彼女を見ていなかっただろう。あの時点では、まだ多少、これまでとは変わった種類の女に興味を持ったという程度のものだった。
 紅玉の簪を贈ろうと考えついたのも、女の気を引くためだけで、別に深い意味はない。これまで彼の周囲にいた女たちは皆、きらびやかな装身具や衣裳などを与えてやると、涙を流さんばかりに歓んだからである。
 しかし、清花の内面―誰よりも優しい気性を知ってからは、彼女を見る眼も違ってきたのは確かだ。
 あんな簪一つで清花の気を引けるなら、安いものだ。そのくらいにしか思っていなかったのに、いざ、清花を眼の前にすると、是非にも簪を受け取らせたいと思った。自分の与えた簪を髪に挿した清花をひとめ見てみたいと強く思った。
 あの少女を知れば知るほど、惹かれずにはいられない。
 国王である自分に父の形見の簪を譲ると言ったときの、あの娘の表情を彼は一生、忘れることはないだろう。一大決心をしたときのように白い頬をほんのり桜色に染めて、少し恥ずかしげに自分を見つめていた。

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