テキストサイズ

妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第1章 闇

 親友の春枝はしばしば仮病を使って清花に自分の仕事を押しつけてしまうが、根は悪くない、さっぱりとした気性の娘だ。昼間は身を粉にして働き、合間には春枝や同じ年頃の女官たちとの娘らしいお喋りに打ち興じる。
 女官としての日々は、世間で考えられているほど悲惨なものではない。貧乏暮らしをしていた頃と違って、三度三度きちんとした食事はできるし、ちゃんとした部屋も与えられる。ただ、それはあくまでも一時的なもので、これからの長い一生を思えば、確かに心細いものではある。
 後宮で立身するには二つの方法がある。張尚宮のように実務に長(た)け、頭角を表して尚宮になるという方法と、後は確率的には低いが、国王に見初められ、お手つきとなって側室にのし上がるという道だ。現実的なのは尚宮―つまり管理職になるという方だが、自分のような機転も働かない粗忽者には夢のまた夢であった。
 同じ年頃の若い女官たちが夢見るのは国王(チユサン)殿下(チヨナー)のお目に止まることなのは明白だが、これもまた、さほど美人でもない極めて平凡な容貌の自分には縁遠い話であった。第一、たとえ相手が国王であろうと、男の気を惹いて、それで出世しようなどという考えは清花の気性には合わない。
 女官になった時点で女の幸せはきっぱりと諦めたけれど、もし、女官になどなっていなかったら、自分は心から慕う男と所帯を持つ人生を望み選んでいただろう。栄耀栄華のために、好きでもない男に身を任せるなんて考えただけでも鳥肌が立ちそうだ。
 清花はゆっくりと立ち上がると、周囲に落ちた洗濯物を拾い始めた。
 と、一人の若者がふいに現れ、彼女と一緒に洗濯物を拾い始めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ