妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第1章 闇
清花は大きな黒い瞳を見開き、若者を見つめる。藍色の官服をすっきりと着こなしている立ち姿は威風堂々として、ただ者ではなさそうだ。やがて、清花はその衣服が内官(ネガン)―内侍(ネシ)の制服であることに気付いた。
内官というのは宦官であり、内侍(ネシ)府(フ)に所属する。宦官ということで廷臣たちからは蔑視されがちだが、常に国王に近侍しその意を伺う機会が多いことから、絶大な権力を有していた。
若者はひょいひょいと洗濯物を纏めると、清花に差し出した。
その時、初めて彼と眼が合った。漆黒の瞳は黒々と深く、穏やかな光と鋭さを併せ持っているが、不思議と威圧感は与えない。それは、彼が持つ人柄のせいだろう。
「ありがとう」
清花は何故か彼の眼を見ていられず、視線を逸らしてしまう。
「大丈夫? 怪我はしてない?」
そのひと言で、この若い内官が先刻からの一部始終を見ていたのだと知れた。
山ほどの洗濯物を抱えて、よたよたと歩き、あまつさえ無様に転んでしまった―、そんなみっともないところをこの男に見られたと考えただけで、恥ずかしさに顔から火が噴き出しそうだ。
「大丈夫です」
消え入るように応えた清花を見て、内官はふっと笑う。
―笑われてしまった!!
ますます顔を紅くしてうつむく清花に、内官は屈託ない笑みを見せた。
「良かった、たいしたことなかったんだね。それにしても、ひどいな。こんなにたくさんの洗濯物をそなた一人にさせるなんて」
「そ、そんなことはないわ。本当は私ともう一人の女官でやるはずだったんたけど、その子が急な頭痛で寝込んでしまったのよ。だから、私が代わりに一人でやっていたの」
内官というのは宦官であり、内侍(ネシ)府(フ)に所属する。宦官ということで廷臣たちからは蔑視されがちだが、常に国王に近侍しその意を伺う機会が多いことから、絶大な権力を有していた。
若者はひょいひょいと洗濯物を纏めると、清花に差し出した。
その時、初めて彼と眼が合った。漆黒の瞳は黒々と深く、穏やかな光と鋭さを併せ持っているが、不思議と威圧感は与えない。それは、彼が持つ人柄のせいだろう。
「ありがとう」
清花は何故か彼の眼を見ていられず、視線を逸らしてしまう。
「大丈夫? 怪我はしてない?」
そのひと言で、この若い内官が先刻からの一部始終を見ていたのだと知れた。
山ほどの洗濯物を抱えて、よたよたと歩き、あまつさえ無様に転んでしまった―、そんなみっともないところをこの男に見られたと考えただけで、恥ずかしさに顔から火が噴き出しそうだ。
「大丈夫です」
消え入るように応えた清花を見て、内官はふっと笑う。
―笑われてしまった!!
ますます顔を紅くしてうつむく清花に、内官は屈託ない笑みを見せた。
「良かった、たいしたことなかったんだね。それにしても、ひどいな。こんなにたくさんの洗濯物をそなた一人にさせるなんて」
「そ、そんなことはないわ。本当は私ともう一人の女官でやるはずだったんたけど、その子が急な頭痛で寝込んでしまったのよ。だから、私が代わりに一人でやっていたの」