妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
だからといって、朴内官に存在感がないというのではない。彼は内侍府の中でも若手ではいちばんの有望株といわれている。現に、初めて朴内官と出逢った時、清花は彼の辺りを森閑とさせるような圧倒的な存在感に打たれた。あれは彼が並々ならぬ人物であることを何より物語っている。
しかし、朴内官には厳しさの底に優しさがあった。だからこそ、あれほどの存在感を放ちながらも、彼といると、誰もが安心できるような、不思議な安らぎに包まれるのだ。
陽徳山君には、優しさがない。それは即ち相手に対する気遣いとか思いやりと言い換えることもできるだろう。漆黒の昏い瞳は際限ない暗闇へと続いているように虚ろで、その癖、しばしば見る者を芯から凍らせるような冷たい光を放った。
「あっ」
清花が小さな声を上げ、前方につんのめった。どうやら、脚許の小石に躓いたらしい。
「大丈夫か?」
咄嗟に伸びてきた手が支えてくれなければ、清花はその場で転んでいただろう。
それでなくとも、先刻、王に押し倒された時、背中から地面に倒れ込み、腰や背中をしたたか打ちつけたばかりだ。打った箇所は、まだ鈍い痛みが残っている。もしかしたら、痣ができているかもしれない。
清花は大きな手のひらに縋りながら、辛うじて体勢を立て直した。
のろのろと視線を動かすと、気遣わしげにこちらを見守る朴内官の貌が眼に映った。
「朴内官」
危うく涙が零れそうになり、清花は慌ててうつむく。
朴内官は、今日は監察部の制服を着ている。孔雀の羽のついた帽子を被り、監察部独特の制服を纏った、りゅうとした姿は見惚(みと)れるほど頼もしく凛々しい。彼の精悍な男らしい魅力をいっそう際立たせていた。
しかし、朴内官には厳しさの底に優しさがあった。だからこそ、あれほどの存在感を放ちながらも、彼といると、誰もが安心できるような、不思議な安らぎに包まれるのだ。
陽徳山君には、優しさがない。それは即ち相手に対する気遣いとか思いやりと言い換えることもできるだろう。漆黒の昏い瞳は際限ない暗闇へと続いているように虚ろで、その癖、しばしば見る者を芯から凍らせるような冷たい光を放った。
「あっ」
清花が小さな声を上げ、前方につんのめった。どうやら、脚許の小石に躓いたらしい。
「大丈夫か?」
咄嗟に伸びてきた手が支えてくれなければ、清花はその場で転んでいただろう。
それでなくとも、先刻、王に押し倒された時、背中から地面に倒れ込み、腰や背中をしたたか打ちつけたばかりだ。打った箇所は、まだ鈍い痛みが残っている。もしかしたら、痣ができているかもしれない。
清花は大きな手のひらに縋りながら、辛うじて体勢を立て直した。
のろのろと視線を動かすと、気遣わしげにこちらを見守る朴内官の貌が眼に映った。
「朴内官」
危うく涙が零れそうになり、清花は慌ててうつむく。
朴内官は、今日は監察部の制服を着ている。孔雀の羽のついた帽子を被り、監察部独特の制服を纏った、りゅうとした姿は見惚(みと)れるほど頼もしく凛々しい。彼の精悍な男らしい魅力をいっそう際立たせていた。