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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第2章 恋

「どうした、一体何があったんだ?」
 労りのこもった言葉をかけられ、清花はもう我慢できなかった。溢れ出した涙は堰を切ったように止まらない。
 突然泣き出した清花を朴内官は心配そうに見ている。
 ふいに朴内官の視線が胸の辺りで止まり、清花はギクリとした。そういえば、王に乱暴されそうになった時、チョゴリの上着どころか、下着まで脱がされていたのを忘れていた。あまりに動揺していて、そこまで思いを馳せるゆとりがなかった。
「具(グ)女官(ナイン)―」
 朴内官は何か言いかけたが、ふっと口をつぐみ、自らの上着を脱ぐと、そっと清花の背後に回って肩から羽織らせてくれた。
「その―、言いにくいことかもしれないが、できるだけ正直に応えて欲しい。仮にも国王殿下のものである後宮の女官に手を出すなど、たとえ大臣だとて許されぬ行為だ。狼藉者を即刻捕らえて、厳罰に処さなければならない。―誰に乱暴されそうになったのか、その者の名を教えてくれ」
 朴内官は言葉を選んで、できるだけ慎重に訊ねた。清花を必要以上に傷つけまいとしているのが判る。
 清花はもう堪らず、わっと泣きながら、朴内官の胸に飛び込んだ。
「朴内官、私は国王殿下が怖い」
「―」
 そのひと言で、朴内官はすべてを理解したに違いない。内侍府きっての切れ者といわれる男だ。
 すすり泣く清花の背に躊躇いがちに朴内官の手が回された。
 彼は清花が泣き止むまで辛抱強く待ってから、静かな声音で言った。
「少し歩こう」
 ここは大殿にも近く、このような場所で話せる内容ではない。

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