妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
清花も素直にその言葉に従った。朴内官は清花の背に手を添え、肩を抱くようにしてゆっくり歩く。そんなところからも、彼の気遣いや配慮がさりげなく感じられた。
朴内官が清花を伴ったのは、〝北園〟と呼ばれる広大な庭園の一角であった。ここは到底人工とは思えない巨大な池が常に満々と水を湛えており、眼にもあやな錦鯉が優美に泳いでいる。
王やその妃たちが池面に張り出した四阿に佇み、鯉に餌をやる光景もしばしば見られた。
五月の今、池の畔には牡丹が大輪の花を誇らしげに咲かせている。緋牡丹、白牡丹、更にはぼかしの入ったものもあり、それらの花が一斉に花開いた光景は、天上の楽園もかくやと思える。
朴内官が傍らの牡丹に手を伸ばし、一輪を摘み取った。純白の牡丹をそっと差しのべる。
「初めて具女官を見た時、私は真っ先にこの白い牡丹を思い出した。清らかでいて、凜としている。その佇まいが具女官にとてもよく似ていると思ったんだ」
清花は頬をうっすらと染めた。
「そんな―。私が牡丹だなんて、とんでもない。私なんか、道端にひっそりと咲く野辺の花程度のものだわ」
朴内官がひそやかに笑った。
「そういえば、そなたの名は清花だった」
〝清花、清花〟と朴内官はまるで愛しい女の名を呼ぶように呟く。たったそれだけのことで、清花は頬を熱くした熱が身体中にひろがってゆくようだった。
「清らかな花とは、まさしくこの純白の牡丹を指しているような気がする。そなたには似合っている」
朴内官は深い息を吐いた。
「殿下がそなたを見初められたのだな」
それは清花に向けた言葉というより、彼自身に言い聞かせているようでもある。
朴内官が清花を伴ったのは、〝北園〟と呼ばれる広大な庭園の一角であった。ここは到底人工とは思えない巨大な池が常に満々と水を湛えており、眼にもあやな錦鯉が優美に泳いでいる。
王やその妃たちが池面に張り出した四阿に佇み、鯉に餌をやる光景もしばしば見られた。
五月の今、池の畔には牡丹が大輪の花を誇らしげに咲かせている。緋牡丹、白牡丹、更にはぼかしの入ったものもあり、それらの花が一斉に花開いた光景は、天上の楽園もかくやと思える。
朴内官が傍らの牡丹に手を伸ばし、一輪を摘み取った。純白の牡丹をそっと差しのべる。
「初めて具女官を見た時、私は真っ先にこの白い牡丹を思い出した。清らかでいて、凜としている。その佇まいが具女官にとてもよく似ていると思ったんだ」
清花は頬をうっすらと染めた。
「そんな―。私が牡丹だなんて、とんでもない。私なんか、道端にひっそりと咲く野辺の花程度のものだわ」
朴内官がひそやかに笑った。
「そういえば、そなたの名は清花だった」
〝清花、清花〟と朴内官はまるで愛しい女の名を呼ぶように呟く。たったそれだけのことで、清花は頬を熱くした熱が身体中にひろがってゆくようだった。
「清らかな花とは、まさしくこの純白の牡丹を指しているような気がする。そなたには似合っている」
朴内官は深い息を吐いた。
「殿下がそなたを見初められたのだな」
それは清花に向けた言葉というより、彼自身に言い聞かせているようでもある。