妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
殿下は誤解されやすい方だ。本当は英邁なお方で、聖君となられる十分な器を持ちながら、わざとあのようにふるまわれる。恐らく殿下はお淋しいのであろう。私が思うに、殿下のお側にはこれまで殿下を変えるだけの力を持つ女人がいなかった。しかし、そなたのような女人があの方の生涯の伴侶となれば、きっとお変わりなるだろう。いや、お変わりになるのも夢ではないと思っている。そなたの優しさが殿下をお救いし、ひいては、この(朝)国(鮮)をも救うことになる」
淡々と口にする朴内官に、清花は思わず言っていた。
「どうして、そんなことを仰るのですか!?」
悲鳴のような声が出てしまい、朴内官が愕いたように清花を見た。
「私は、私は!」
言いかけ、清花は次の科白を呑み下す。
言葉だけが苦い塊となり、喉につかえたようだ。まるで鉛を呑み込んだように息苦しい。
この時、清花は自分の心を悟った。
ああ、私はこの方が、朴内官が好きなのだ。
恐らく、初めて井戸端で出逢ったその瞬間から、彼に惹かれていたのだろう。
しかし、この想いは到底、口に出来るものではない。朴内官は王の信頼も厚い忠臣だ。彼もまた、王に誰よりも忠誠を誓っている。その主人の欲しがる女が自分に想いを寄せていると知れば、困惑するだけだろう。
「私には―好きな男(ひと)がいます」
それが精一杯の告白だった。
朴内官は眼を見開き、しばし思案に耽るように眼を閉じた。
ややあって眼を開いた彼はゆっくりと問う。
「後宮に仕える女官は生涯嫁ぐことは叶わぬ」
淡々と口にする朴内官に、清花は思わず言っていた。
「どうして、そんなことを仰るのですか!?」
悲鳴のような声が出てしまい、朴内官が愕いたように清花を見た。
「私は、私は!」
言いかけ、清花は次の科白を呑み下す。
言葉だけが苦い塊となり、喉につかえたようだ。まるで鉛を呑み込んだように息苦しい。
この時、清花は自分の心を悟った。
ああ、私はこの方が、朴内官が好きなのだ。
恐らく、初めて井戸端で出逢ったその瞬間から、彼に惹かれていたのだろう。
しかし、この想いは到底、口に出来るものではない。朴内官は王の信頼も厚い忠臣だ。彼もまた、王に誰よりも忠誠を誓っている。その主人の欲しがる女が自分に想いを寄せていると知れば、困惑するだけだろう。
「私には―好きな男(ひと)がいます」
それが精一杯の告白だった。
朴内官は眼を見開き、しばし思案に耽るように眼を閉じた。
ややあって眼を開いた彼はゆっくりと問う。
「後宮に仕える女官は生涯嫁ぐことは叶わぬ」