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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第2章 恋

「それはむろん承知しております。さりながら、朴内官、相手の殿方にこの想いを告げず、自分一人でひそかにお慕いするのは誰に咎めることもできませぬ。たとえ国王殿下だとても」
 毅然として言い切った清花を、朴内官は眩しげに見つめる。
「そなたは見かけは可憐な花のような風情だが、実に潔い。男の私でも脚許に及ばぬほどだ。そなたにそこまで想われている幸運な男が羨ましい」
 朴内官が最後は戯れ言めいて言い、ふっと笑う。
 そのひと言に、不覚にも清花の胸はあらぬ期待に高鳴ってしまう。
 しばらく沈黙があった。お互いが次の言葉が相手の口から発せられるのを待っていた。
 やがて朴内官が負けて口を開きかけ、同時に清花もまた、〝あの〟と口にする。二人して殆ど時を同じくして話し始めた格好になり、二人はしばし顔を見つめ合っていたかと思うと、ほぼ同時に吹き出した。
「私の生まれた家は、これでも両班の端くれでね」
 朴内官は訥々と生い立ちを語る。幼い頃を見つめているのか、その瞳は遠い。
「父が下級官吏だったから、両班とは本当に名ばかりで、母は内密に内職までしていた。それでも家計はいつも火の車で、両親の苦労を見かねて、私は自分から内侍になることを決めたんだ」
 その話に清花は衝撃を隠せない。元々貧しい貧民の子であれば、幾らかの金と引き替えに男としての一生を棄てる―そういう選択肢も理解できないわけではない。しかし、仮にも貴族の子弟でありながら、家門を棄て、男根を切るのはどれほどの苦痛と決断を必要としただろう。

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