妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第2章 恋
そんなある日、沈清の前に代官が現れ、米と引き替えにある条件を出してくる。それは、海上の船から飛び降り、龍神に身を捧げるというものだった。荒ぶる海の神を鎮めるために行われる儀式である。また、進んで自らを龍神に捧げれば、その孝心に免じて、必ずや父の眼も治り、光を取り戻すあろうとでたらめを吹き込まれる。
沈清は沖合に出た船から海神に捧げられる供物として飛び降りた。が、父の眼が癒えるはずもない。彼女はあくどい代官にまんまと騙されたのだ。
これには後日譚がある。沈清は死なず、ある地に流れ着き、そこで一人の若者とめぐり逢う。その若者こそ、時の国王の息子であり、妾腹の子であることから正室の王子をはばかって地方でひそかに暮らしていたのだ。二人は忽ちにして恋に落ちた。
その頃、都では世子、つまり王太子が亡くなり、新たに隠れ住んでいた王子が世子として迎えられることになった。王子は都を離れる前に沈清に求婚し、二人は結ばれる。晴れて王妃となった沈清は後に王と共に生まれ故郷に赴くことがあった。
若く美しい王妃を見た村の者―むろん代官も含めて―は皆、腰を抜かさんばかりに愕いたという。何しろ、昔、騙されて死んだはずの娘が生きていて、しかも王妃になって帰ってきたのだから。天罰が当たったのか、この代官は病に罹り、盲目となり、それと入れ替わるように沈清の父の眼は嘘のように治ったそうだ。
この話は因果応報、更には親孝行の大切さを説いたものであり、朝鮮に古くから伝わる民話だ。〝沈清〟といえば、今でも孝行娘の代名詞となっているほど朝鮮では有名な物語でもある。
「―朴内官こそ、私を買い被りすぎていらっしゃるのではありませんか?」
沈清は沖合に出た船から海神に捧げられる供物として飛び降りた。が、父の眼が癒えるはずもない。彼女はあくどい代官にまんまと騙されたのだ。
これには後日譚がある。沈清は死なず、ある地に流れ着き、そこで一人の若者とめぐり逢う。その若者こそ、時の国王の息子であり、妾腹の子であることから正室の王子をはばかって地方でひそかに暮らしていたのだ。二人は忽ちにして恋に落ちた。
その頃、都では世子、つまり王太子が亡くなり、新たに隠れ住んでいた王子が世子として迎えられることになった。王子は都を離れる前に沈清に求婚し、二人は結ばれる。晴れて王妃となった沈清は後に王と共に生まれ故郷に赴くことがあった。
若く美しい王妃を見た村の者―むろん代官も含めて―は皆、腰を抜かさんばかりに愕いたという。何しろ、昔、騙されて死んだはずの娘が生きていて、しかも王妃になって帰ってきたのだから。天罰が当たったのか、この代官は病に罹り、盲目となり、それと入れ替わるように沈清の父の眼は嘘のように治ったそうだ。
この話は因果応報、更には親孝行の大切さを説いたものであり、朝鮮に古くから伝わる民話だ。〝沈清〟といえば、今でも孝行娘の代名詞となっているほど朝鮮では有名な物語でもある。
「―朴内官こそ、私を買い被りすぎていらっしゃるのではありませんか?」