妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第1章 闇
早口で応える清花を、内官は笑って見ている。
「あの、私、何かおかしいことを言ったかしら」
躊躇いがちに清花が訊ねると、彼は笑いながら首を振る。
「いや、全然。ごめん、私が笑ったのは、別にそなたの言ったことがおかしいからとか、そうい意味ではないんだ」
若い内官はまだ笑いを堪(こら)えているような顔で言い、清花の手から籠をさりげなく奪い取った。
「私が持とう」
「でも」
清花が言いかけると、内官は真顔で首を振る。
「宮廷暮らしでは、困ったときは相身互いだよ。特に女官と内官は立場は違えども、所詮は似たような境遇だ。お互いに助け合うのは悪いことではない」
確かに彼の言葉は道理である。内官―内侍の宿命は女官と似ている。幼くして内官となる彼らは、大抵、貧しい家の子弟が多い。大方は口減らしのために親に内官にさせられるのだ。まだ物心つくかつかぬ幼い歳で男根を切られ、生涯異性と交わることもなく、子をなすこともできぬ運命を余儀なくされる。国王のために一生を捧げるという意味では、女官と全く同じだろう。
彼の言葉は清花の心にすんなりと入ってきた。清花は素直に彼の厚意を受け容れ、彼に洗濯物を持って貰うと、その傍らに並んで歩き始めた。
「そなたの名前は?」
「具(グ)清花(チヨンファ)」
「あまり見かけない顔だね」
清花はうつむいた。
「私って、目立たないから。これでも入宮してから、もう長いのよ」
―清花って、そこにいても、いないのかと思うほど存在感薄いのよね。
「あの、私、何かおかしいことを言ったかしら」
躊躇いがちに清花が訊ねると、彼は笑いながら首を振る。
「いや、全然。ごめん、私が笑ったのは、別にそなたの言ったことがおかしいからとか、そうい意味ではないんだ」
若い内官はまだ笑いを堪(こら)えているような顔で言い、清花の手から籠をさりげなく奪い取った。
「私が持とう」
「でも」
清花が言いかけると、内官は真顔で首を振る。
「宮廷暮らしでは、困ったときは相身互いだよ。特に女官と内官は立場は違えども、所詮は似たような境遇だ。お互いに助け合うのは悪いことではない」
確かに彼の言葉は道理である。内官―内侍の宿命は女官と似ている。幼くして内官となる彼らは、大抵、貧しい家の子弟が多い。大方は口減らしのために親に内官にさせられるのだ。まだ物心つくかつかぬ幼い歳で男根を切られ、生涯異性と交わることもなく、子をなすこともできぬ運命を余儀なくされる。国王のために一生を捧げるという意味では、女官と全く同じだろう。
彼の言葉は清花の心にすんなりと入ってきた。清花は素直に彼の厚意を受け容れ、彼に洗濯物を持って貰うと、その傍らに並んで歩き始めた。
「そなたの名前は?」
「具(グ)清花(チヨンファ)」
「あまり見かけない顔だね」
清花はうつむいた。
「私って、目立たないから。これでも入宮してから、もう長いのよ」
―清花って、そこにいても、いないのかと思うほど存在感薄いのよね。