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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

     忍

 更に半月を経た。朴内官と忘れ得ぬひとときを過ごした北園の牡丹もとうに散り、季節は本格的な夏にうつろおうとしていた。
 そんなある朝、清花は毎度のごとく大量の洗濯物と格闘していた。親友の春枝は、このところ、どういうわけか清花と口をきこうともしない。これまでにも喧嘩をしたことは何度もあったが、その度に、どちらかが謝り、知らない間に元の鞘におさまっていた。
 が、今回ばかりは、春枝が急によそよそしくなったその原因そのものが判らない。
 二人で一緒にしていた毎朝の洗濯も以前はたまにサボる程度だったのに、今は、ろくにやっていない。その上、他の若い女官たちと群れ集まり、清花が通りかかると、彼女を見ながら、ひそひそと囁き合って、いかにも〝悪口言ってます〟という感じだ。
 清花だって別に何もしないでいたわけではない。何度も春枝にその理由を問おうとしたのだけれど、清花が近づいただけで、春枝はプイと顔を背けて遠ざかってしまうのだ。
 全く取り尽く島もないというのは、このことだった。
 春枝が一緒にやっていた仕事をすっぽかすのはもう毎度のことなので、清花は一人でさっさと洗濯を片付けた。
 漸く洗い上がった洗濯物を張り巡らした縄に順に干してゆく。これもなかなか骨の折れる作業ではあるが、その日も上天気で、蒼い空に無数の白い布がたなびく様は胸が空くようでもある。
 清花はその場に立ち、腰に両手を当てて自分の仕事を満足げに眺めていた。
 その時。向こうから物々しい雰囲気の一団が近づいてくるのが見えた。

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