妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
しかし、幾ら考えてみても、てんで思い当たる節がない。確かに、女たちばかりの後宮という閉ざされた場所では、こういう事件はままあることではある。そして、こういった場合、いびられたり無視されたりする当人にはまるで自覚がなく、知らない間に何らかの罪状をでっち上げられている。
九歳で入宮してから十七歳までを後宮で過ごしてきた清花には、これがその例に洩れないということはすぐに判った。
では、どうやって彼女たちの誤解をあかし、もつれた感情を解きほぐしてゆくか。それが最も大切であり、なおかつ難しいことなのだ。
真実を口にしてしまいたいという想いはあったが、自分をぐるりと取り囲む輪の端にいる春枝と眼が合った瞬間、それは変わった。
春枝はいつもの彼女らしくもなく、おどおどした様子で清花と眼を合わせまいとする。その癖、うっかりと顔を見合わせでもしようものなら、キッと烈しい眼で睨んでくる。
何故、何もしていない自分がそのような眼で睨まれねばならないかという不条理な想いはあったけれど、この場はまず誤解を解くことが先決だ。
それに、理不尽な仕打ちを受けたとしても、春枝は自分にとっては親友だ。大勢の女官たちの中でも心を許せるのは彼女だけだった。
その春枝をできれば矢面には立たせたくない。自分でも馬鹿がつくほどのお人好しだと思わずにはいられなかったが、とにかく、できるだけ春枝との仲をこれ以上こじらせたくなかったのだ。
突如として、親分格の娘が干してあった洗濯物を手に取った。勢いよく手にしたものを地面に投げつけ、脚で踏む。
それに倣うかのように、他の女官たちも片っ端からひったくり、地面に投げつけ、靴で踏みしめる。折角時間をかけて綺麗に洗い上げた洗濯物がまた土にまみれ、元の黙阿弥だ。
「何するのよ?」
九歳で入宮してから十七歳までを後宮で過ごしてきた清花には、これがその例に洩れないということはすぐに判った。
では、どうやって彼女たちの誤解をあかし、もつれた感情を解きほぐしてゆくか。それが最も大切であり、なおかつ難しいことなのだ。
真実を口にしてしまいたいという想いはあったが、自分をぐるりと取り囲む輪の端にいる春枝と眼が合った瞬間、それは変わった。
春枝はいつもの彼女らしくもなく、おどおどした様子で清花と眼を合わせまいとする。その癖、うっかりと顔を見合わせでもしようものなら、キッと烈しい眼で睨んでくる。
何故、何もしていない自分がそのような眼で睨まれねばならないかという不条理な想いはあったけれど、この場はまず誤解を解くことが先決だ。
それに、理不尽な仕打ちを受けたとしても、春枝は自分にとっては親友だ。大勢の女官たちの中でも心を許せるのは彼女だけだった。
その春枝をできれば矢面には立たせたくない。自分でも馬鹿がつくほどのお人好しだと思わずにはいられなかったが、とにかく、できるだけ春枝との仲をこれ以上こじらせたくなかったのだ。
突如として、親分格の娘が干してあった洗濯物を手に取った。勢いよく手にしたものを地面に投げつけ、脚で踏む。
それに倣うかのように、他の女官たちも片っ端からひったくり、地面に投げつけ、靴で踏みしめる。折角時間をかけて綺麗に洗い上げた洗濯物がまた土にまみれ、元の黙阿弥だ。
「何するのよ?」