妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
清花は悲鳴を上げた。
最初の女官がフンと口角を引き上げる。
「良い気味じゃない、ねえ?」
その相槌は春枝に向けられたものらしい。
春枝の傍らの別の女官が頷いた。
「国王殿下のご寵愛を一度受けたからって、良い気にならないでね」
「―あなたたち、何を言ってるの?」
清花が茫然として呟くのに、春枝が突然、叫ぶように言った。
「あなたが殿下のお相手を務めたところを見た女官がいるのよ。それでもまだ、しらばくれるつもり?」
最初の女官が意味ありげに口の端を歪めた。
「それも、大胆な誰かさんは殿下と路上でご一緒だったって言うじゃない。大人しそうに見えて、人は見かけによらないものねー」
「―」
清花は口惜しさのあまり、唇をきつく噛みしめた。あまりといえば、あまりの言いがかりだ。確かに半月前、清花は王に押し倒され、陵辱されかけた。だが、あれはあくまでも未遂であって、けして寵愛を受けたわけではない。なのに、ほんの一部を見た者があること、ないこと話に尾ひれをつけて皆に噂を流したのだ。
「誰が何を見たのかは知らないけれど、私の身は至って潔白です。天に誓っても、恥じることはないわ」
清花はそう言い切ると、毅然として落ちた洗濯物を拾い始めた。それを見た女官たちが顔を見合わせる。しんとした気まずい沈黙が漂う中、その場に凛とした声が響き渡った。
「そなたら、ここで何をしている?」
鋭い誰何の声に、皆が一様に目配せし合った。
朴内官がゆっくりと歩いてくる。
先導していた女官がいち早く踵を返し、皆もその後に遅れじと続く。
最後まで残ったのは、春枝ただ一人であった。
最初の女官がフンと口角を引き上げる。
「良い気味じゃない、ねえ?」
その相槌は春枝に向けられたものらしい。
春枝の傍らの別の女官が頷いた。
「国王殿下のご寵愛を一度受けたからって、良い気にならないでね」
「―あなたたち、何を言ってるの?」
清花が茫然として呟くのに、春枝が突然、叫ぶように言った。
「あなたが殿下のお相手を務めたところを見た女官がいるのよ。それでもまだ、しらばくれるつもり?」
最初の女官が意味ありげに口の端を歪めた。
「それも、大胆な誰かさんは殿下と路上でご一緒だったって言うじゃない。大人しそうに見えて、人は見かけによらないものねー」
「―」
清花は口惜しさのあまり、唇をきつく噛みしめた。あまりといえば、あまりの言いがかりだ。確かに半月前、清花は王に押し倒され、陵辱されかけた。だが、あれはあくまでも未遂であって、けして寵愛を受けたわけではない。なのに、ほんの一部を見た者があること、ないこと話に尾ひれをつけて皆に噂を流したのだ。
「誰が何を見たのかは知らないけれど、私の身は至って潔白です。天に誓っても、恥じることはないわ」
清花はそう言い切ると、毅然として落ちた洗濯物を拾い始めた。それを見た女官たちが顔を見合わせる。しんとした気まずい沈黙が漂う中、その場に凛とした声が響き渡った。
「そなたら、ここで何をしている?」
鋭い誰何の声に、皆が一様に目配せし合った。
朴内官がゆっくりと歩いてくる。
先導していた女官がいち早く踵を返し、皆もその後に遅れじと続く。
最後まで残ったのは、春枝ただ一人であった。