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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第1章 闇

 と言った女官は、誰だっただろう?
 その時、その場に居合わせた春枝は猛然と彼女に食ってかかったけれど。
―その言い方って、ちょっとあんまりなんじゃない?
 でも、実はその女官の言ったことは本当だったりする。格別に美しくもなく、才気もない。どこにでもいる平凡な娘で、大勢に紛れてしまえば、その存在すら定かではなくなってしまう。
 清花自身、嫌というほど自覚している。
「いや、済まない。何だか、私はそなたに失礼なことばかり言っているようだ。別にそなたを傷つけるつもりで言ったのではないんだが」
「入宮して長いということは、どれくらい?」
「九年になります」
「では、私の方がほんの少しだけ先輩ということになるかな。私は十一で小宦となって、今年十二年めになるから」
 内官を総括するのは内侍府であるが、各部署にそれぞれ配属が決まっている。小宦というのは、まだ幼い内官を指し、この時代は特に所属部署が定まらず、見習いとして掃除や洗濯、薪割などの雑益に従事し、修練期間を経て新たな配属が決まるのだ。
 内官と女官、普段から同じ空間にいて、これまで出逢わなかった方が不思議だった。―そして、まさに、これが清花と彼、朴(パク)内官との運命的な出逢いとなったのである。
 内官は清花を殿舎まで送り届けると、片手を上げて去ってゆこうとした。
「また」
 遠ざかろうとする背中に向かって、清花は拳を握りしめた。
 今、言わなければ、きっと後悔する。
「ありがとう、何から何まですっかりお世話になってしまって」
 自分としては最大級の勇気を振り絞ったつもりだった。

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