妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
清花は少しの逡巡を見せ、頷いた。
「叶わない夢だとは判っていますが、夢を見るのは自由ですものね」
その時、清花の瞼には、確かに桜色の花嫁衣装を着た我が身が浮かんでいた。そして、その隣に並ぶ花婿は―、他ならぬ情熱的な口づけを交わしたばかりの朴内官であった。
もしかしたら―。
この時、清花は考えた。朴内官もまた自分を好きでいてくれるのかもしれない。けれど、敢えて、彼の気持ちを確かめようとは思わなかった。
二人の恋に見込みはない。男根を切り、生涯を国王に捧げた内侍と、国王から見初められた女官。二人の恋が成就するときは、即ち身の破滅するときだ。大切な男の将来をむざと駄目にするなんて、できるはずがない。
朴内官は内侍府長にまでなるであろうと噂されているほどの男なのだ。自分などのために、彼の一生を破滅させてはならない。
これで十分だ。朴内官と夢のように幸せな刻を過ごし、たとえ何があっても自分だけは信じているとさえ言って貰えた。これ以上のことを望めば、それこそ仏罰が当たるというもの。
「そう、か」
朴内官もまた小さく頷き、腕の中の彼女をいっそう強く抱きしめ、その豊かな黒髪に顎を埋めた。
「私もだ」
〝え〟と顔を上げると、朴内官の優しい笑顔があった。
「私もその婚礼衣裳を着たそなたを見てみたい」
清花は予期せぬ言葉に頬を更に紅くし、甘えるように朴内官の胸に頬を押しつけた。
「叶わない夢だとは判っていますが、夢を見るのは自由ですものね」
その時、清花の瞼には、確かに桜色の花嫁衣装を着た我が身が浮かんでいた。そして、その隣に並ぶ花婿は―、他ならぬ情熱的な口づけを交わしたばかりの朴内官であった。
もしかしたら―。
この時、清花は考えた。朴内官もまた自分を好きでいてくれるのかもしれない。けれど、敢えて、彼の気持ちを確かめようとは思わなかった。
二人の恋に見込みはない。男根を切り、生涯を国王に捧げた内侍と、国王から見初められた女官。二人の恋が成就するときは、即ち身の破滅するときだ。大切な男の将来をむざと駄目にするなんて、できるはずがない。
朴内官は内侍府長にまでなるであろうと噂されているほどの男なのだ。自分などのために、彼の一生を破滅させてはならない。
これで十分だ。朴内官と夢のように幸せな刻を過ごし、たとえ何があっても自分だけは信じているとさえ言って貰えた。これ以上のことを望めば、それこそ仏罰が当たるというもの。
「そう、か」
朴内官もまた小さく頷き、腕の中の彼女をいっそう強く抱きしめ、その豊かな黒髪に顎を埋めた。
「私もだ」
〝え〟と顔を上げると、朴内官の優しい笑顔があった。
「私もその婚礼衣裳を着たそなたを見てみたい」
清花は予期せぬ言葉に頬を更に紅くし、甘えるように朴内官の胸に頬を押しつけた。