テキストサイズ

妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 その翌朝、宮殿は俄に緊迫した雰囲気に包まれた。その原因となった異常事態とは、あろうことか国王の信も厚い朴内官が抗議行動に出たことに端を発した。
―朴内官が国王殿下に直訴しているらしいわよ。
 後宮女官たちの間にも、噂は風のように駆け抜けた。
 むろん、清花もその噂を耳にはしたものの、肝心の直訴の内容が伝わってこない。既に朴内官は書状をしたため、王にその内容を伝えているとのことであったが、公表されることはなかった。それほどの重大な―或いは国王の体面に拘わることなのだと知るにつけ、そこまでのことをやってのけた朴内官の身がどうなるかは考えるだけでも怖ろしい。
 いかに国王の信頼する内官だとても、到底、ただでは済まされないだろう。大体、直訴そのものが王や王室に対する不敬罪に相当するのだ。軽くても拷問の上、宮中追放か、最悪の場合、死罪は免れないに相違ない。
 早朝から始まった抗議行動が三日めに入った日の昼下がり、朴内官は大殿前に筵を敷いて端座していた。その手前にはユックン壺が置かれている。ユックン壺は、内侍の男根が塩漬けにされ、納められている。その名の意味そのものが〝身体の一部〟を示しており、例えば内侍が退官して出宮する際にはこの壺を持ち帰るし、亡くなった際には棺に亡骸と共に納める。
 もし身体の一部が欠けたまま死出の旅に出れば、その者は永遠に成仏も転生もできず、その魂は闇をさまようとまで謂われている。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ