妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
つまりは、ユックン壺とは内官にとっては最も大切なものであり、こうした直訴などする際は、必ずユックン壺を持参するのが倣いとなっている。八代国王叡(イエ)宗(ジヨン)の治世、叡宗が内侍を烈しく弾圧したため、内官たちが一同打ち揃い、抗議行動に出たことがあった。そのときは大殿前にあまたの内官が座り、皆、その腕にはユックン壺を抱いていた。その眺めは壮観でもあり、一種独特の雰囲気があったと当時の記録に残されている。
直訴を取り下げない限り、訴える者は同じ場所に座り続け、その間は一切飲食しない。
既に五月も終わりに近づいた太陽は朴内官の上に容赦なく照りつける。真夏ほどではないとはいえ、この暑さで一滴の水も摂らないというのは、死を意味する。
清花は朴内官の身をひたすら案じた。
三日めの昼下がり、中天に達した太陽は朴内官に燦々と照りつけ、その額には玉の汗が滲んでいた。既に意識は朦朧としているが、不思議なことに、頭の芯だけは冴え渡っていた。
ふいに大殿の奥から国王陽徳山君が姿を現した。背後には大勢の伴が恭しく付き従っている。そういえば、今日は王が大王大妃さまの許へご機嫌伺いにゆかれる日だった―と、朴内官はぼんやりと思い出した。
緋色の天蓋を高々と掲げた内官が王の傍らに従い、更に数人の内官、尚宮、女官たちがぞろぞろと続く。いつもの見慣れた行列だ。
階(きざはし)をゆっくりとした脚取りで降りてきた王がチラリと彼を一瞥した。が、すぐに視線を外し、前を向いてそのまま行き過ぎようとする。
朴内官は、ふらつく身体を意思の力だけで保ちながらも、ありったけの力を腹に込めて叫んだ。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)」
直訴を取り下げない限り、訴える者は同じ場所に座り続け、その間は一切飲食しない。
既に五月も終わりに近づいた太陽は朴内官の上に容赦なく照りつける。真夏ほどではないとはいえ、この暑さで一滴の水も摂らないというのは、死を意味する。
清花は朴内官の身をひたすら案じた。
三日めの昼下がり、中天に達した太陽は朴内官に燦々と照りつけ、その額には玉の汗が滲んでいた。既に意識は朦朧としているが、不思議なことに、頭の芯だけは冴え渡っていた。
ふいに大殿の奥から国王陽徳山君が姿を現した。背後には大勢の伴が恭しく付き従っている。そういえば、今日は王が大王大妃さまの許へご機嫌伺いにゆかれる日だった―と、朴内官はぼんやりと思い出した。
緋色の天蓋を高々と掲げた内官が王の傍らに従い、更に数人の内官、尚宮、女官たちがぞろぞろと続く。いつもの見慣れた行列だ。
階(きざはし)をゆっくりとした脚取りで降りてきた王がチラリと彼を一瞥した。が、すぐに視線を外し、前を向いてそのまま行き過ぎようとする。
朴内官は、ふらつく身体を意思の力だけで保ちながらも、ありったけの力を腹に込めて叫んだ。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)」