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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 同じ頃、清花は張尚宮の部屋に呼ばれていた。丁度、殿舎の掃除を終えたばかりだった清花は、急いで呼びに来た女官と共に張尚宮の自室に赴く。
「尚(サン)宮さま(グンマーマ)、お呼びでございましょうか」
 一人、部屋の中に入ると、張尚宮は座椅子に座り、何事か思案に耽っている最中のようであった。
「ああ、参ったか」
 張尚宮は頷くと、手で差し招く。
「これへ」
 何か外聞をはばかる内輪の話なのだろうと見当をつけ、言われるままに張尚宮に近づく。
「朴内官のことは、そなたも存じておろうな」
 いきなり切り出され、清花は眼を見開いたものの、素直に頷いた。
「はい、存じております」
「朴内官が何ゆえ、直訴などに及んだか、そなたは事情を知っているか?」
「いえ」
 清花は息を詰めて張尚宮の口許を見つめた。
 張尚宮は深い息を吐き、続けた。
「面妖には思わぬか? 直訴の内容も明らかにはされず、ああまで必死の形相で座り込みを続けるとは。私が知る限り、朴内官はおよそ理性を失うことはなく、感情に流されることなどない男であった。その者が国王殿下の信頼も栄達もすべて振り切ってまで、生命賭けであのようなことをするのには、それなりの理由があるのだ」
何やら意味を含んだ物言いに、清花は身を乗り出した。
「尚宮さまは何かをご存じなのでございますね?」
 張尚宮が緩く首を振る。自分に向けられた眼に憐憫の色が宿っているのを、清花は不吉な予感と共に受け止めていた。

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