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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

「このことは絶対に他言は無用と上から言い聞かされておったのだが、どうにも私一人の胸の内におさめておくには事が大きすぎる」
 張尚宮が口にした真相は、清花に大きな打撃を与えた。
「四日前、提調尚宮さまの許に国王殿下から内々のご沙汰があった。清花、そなたを殿下のご寝所に召す―つまり、そなたは夜伽を仰せつかったのだ」
「―!!」
 清花は、あまりの事に言葉もない。
―そなたは、母御がそなたのために仕立てた嫁入り衣装を着たいと思ったことはあるか?
 朴内官の声が耳奥で甦る。
 今、彼女は漸く悟った。何故、彼があんな質問をしたのか。
―たとえ夢が叶わなくても、夢を見るだけは自由ですもの。
 多分、自分の返事を聞いたその時、彼は心を決めたのだろう。あの時、既に彼は王が清花を寝所に召すと言い出したことを知っていたに相違ない。
 ああ、朴内官。
 清花は胸が熱くなった。その場に身を投げ出して思う存分に泣きたかった。
 茫然とする清花の耳に、淡々とした張尚宮の声が入ってくる。 
「殿下に最も近いのが内侍府ゆえ、その御意は直ちに内侍府にも伝えられた。朴内官が直訴を始めたのは、その翌朝からのことだ。朴内官は畏れ多くも殿下に書状で訴えた。そなたを夜伽の勤めから外して欲しいとな」
 上奏を読んだ国王の怒りは深かった。
「大概の者であれば、ここまですれば生命はなかろう。さりながら、殿下は朴内官を臣下というよりは兄のように信頼しておられる。加えて、朴内官は殿下の幼き日、そのお生命をお助け参らせた。流石の殿下も生命の恩人を殺すことはおできにならないのであろう」

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