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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 事が事だけに―しかも国王が夜伽にと望む女一人の処遇を巡って内官が直訴したなど前代未聞のことゆえ―、事件の全容は伏せられている。
 朴内官の処分を恐る恐る訊ねる大臣たちに、王は憮然として応えたのみであった。
「捨ておけ」
 だがと、張尚宮は嘆息する。
「いかの朴内官でも、あまりにこれが長引けば、やはり無事では済むまい。殿下はあのとおり、感情の起伏の烈しいお方ゆえ、怒りに任せて、或いは―ということも十分にあり得る。清花、私は朴内官が小宦として入宮した当時から、あの者を見てきた。まだ年若ながら、その頃から怜悧で、頭の回転の良さは抜きん出ていたものだ。あれは一介の内侍で終わるような男ではない。必ずや内侍府長にまで昇り、殿下を引いては王室を盛り立てる忠臣・功臣となるだろう。朴内官を死なせてはならぬ」
―朴内官を死なせてはならぬ。
 そのひと言が何を意味するものか、清花にはよく判った。
 清花は小さく胸を喘がせる。
「―判りました」
 涙が溢れそうだった。
 悄然と部屋を出てゆく清花の背を見つめる張尚宮の心中は暗澹としていた。
「済まぬ。結局は、そなたを犠牲にすることになってしまったな。だが、朴内官は殿下にとっては必要な男なのだ。あの者を死なせるわけにはゆかぬ」
 呟くと、張尚宮は深い吐息を吐き出し、力尽きたように座椅子にもたれかかった。

 その日の中に、朴内官は大殿前から強制退去させられ、王から処分の沙汰が下るまで自室で謹慎を命じられた。
「殿下、国王殿下!」

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