妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
あの娘の優しさには、それだけの力がある。
しかし、清花は王の許にゆくことを望んではいない。なのに、王は清花を無理に我がものにしようとしている。彼はそれが許せなかった。
あの嫁入り衣装を着ることは叶わなくても、せめて意に添わぬ男のものになるのだけは止めさせてやりたい。その一心で始めた直訴であった。
部屋を出るように命じられた朴内官は、大殿まで連れてゆかれた。どうやら、今すぐに拷問されるわけではないらしい。覚悟はしていても、やはりホッとするのは確かだ。
拷問を受けて、そのまま落命する者も少なくはない。それほどに酷い責め苦の数々なのだ。
大殿にゆくと、彼も顔見知りの年配の大殿内官に引き渡され、更に別の場所へ移動する。
最初、辿り着いた殿舎が誰の宮なのかはよく判らなかったのだが、直にハッとした。
ここは張尚宮やその配下の女官たちが住まう殿舎ではないか。とすれば、清花もここにいるはずである。
何故か、胸騒ぎがした。何故、今、清花の暮らす殿舎に自分が連れてこられたのか。
その疑念はすぐに知れた。入り口で待ち受ける内官二人の前に純白の夜着姿の清花が連れてこられたからである。
清花の白い面は蒼白く、血の気は殆ど失せていた。泣いたのか、眼は紅く腫れている。
傍らに立つ大殿内官が彼に言った。
「今宵、具女官が国王殿下のご寝所に召される。そなたの役目は、今宵、殿下との初夜を迎える具女官を大殿のご寝所までお連れすることだ」
朴内官と清花の関係を知っているのかどうか、年配の内官の無表情さからは何も窺えない。それでなくとも、この内官は普段からおよそ感情を露わにしたことのない男だ。
しかし、清花は王の許にゆくことを望んではいない。なのに、王は清花を無理に我がものにしようとしている。彼はそれが許せなかった。
あの嫁入り衣装を着ることは叶わなくても、せめて意に添わぬ男のものになるのだけは止めさせてやりたい。その一心で始めた直訴であった。
部屋を出るように命じられた朴内官は、大殿まで連れてゆかれた。どうやら、今すぐに拷問されるわけではないらしい。覚悟はしていても、やはりホッとするのは確かだ。
拷問を受けて、そのまま落命する者も少なくはない。それほどに酷い責め苦の数々なのだ。
大殿にゆくと、彼も顔見知りの年配の大殿内官に引き渡され、更に別の場所へ移動する。
最初、辿り着いた殿舎が誰の宮なのかはよく判らなかったのだが、直にハッとした。
ここは張尚宮やその配下の女官たちが住まう殿舎ではないか。とすれば、清花もここにいるはずである。
何故か、胸騒ぎがした。何故、今、清花の暮らす殿舎に自分が連れてこられたのか。
その疑念はすぐに知れた。入り口で待ち受ける内官二人の前に純白の夜着姿の清花が連れてこられたからである。
清花の白い面は蒼白く、血の気は殆ど失せていた。泣いたのか、眼は紅く腫れている。
傍らに立つ大殿内官が彼に言った。
「今宵、具女官が国王殿下のご寝所に召される。そなたの役目は、今宵、殿下との初夜を迎える具女官を大殿のご寝所までお連れすることだ」
朴内官と清花の関係を知っているのかどうか、年配の内官の無表情さからは何も窺えない。それでなくとも、この内官は普段からおよそ感情を露わにしたことのない男だ。