妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
まさに〝国王の忠犬〟と朝廷の廷臣たちから半ば蔑みを込めて揶揄される内侍の典型的な姿であった。
朴内官は、あまりの屈辱と憤怒に震えた。
国王殿下は、ここまでなさるというのか!
国王の寝所に侍る女人が初めての夜を迎える時、内官が大殿の寝所まで背負ってゆくのが通例となっている。内官は男根を切った時点で、〝男〟とは見なされなくなる。ゆえに、後宮にも自由に出入りし、妃たちの身の回りの御用も仰せつかる。
初夜を迎える側室を王の許まで送り届けるこの儀式もその一つであった。
だが、よりによって、何故、自分なのだろう。王は誰よりもよく朴内官の気持ちを知っているはずだ。そのために自らの生命をなげうってまで直訴に及んだ女を彼がどう思っているかなど、とうに承知しているだろう。
それなのに、その自分に惚れた女を背負って、恋仇である男の許に連れてゆけというのか―。
その場に擬然として立つ朴内官に、大殿内官が声高に命じる。
「朴内官、お妃さまをお連れ申せ」
彼は弾かれたように顔を上げ、清花を見つめた。そう、今夜―王に抱かれたら、清花は王の側妾となる。
自分はその橋渡しをしようというのだ。
「朴内官」
焦れたような内官の声に促され、朴内官は緩慢な動作で前に進み出た。黙ってしゃがみ込み、背を向ける。
「さあ、清花」
あれは張尚宮の声だろうか。なかなかゆこうとしない清花を急き立てているのだろう。眼を閉じた朴内官の背に重みがかかり、ふわりと甘い香りが漂った。
国王の褥に侍る女は、事前に湯浴みを済ませる。女官たちの手によって丹念に磨き上げられ、身体には香油をすり込まれる。
朴内官は、あまりの屈辱と憤怒に震えた。
国王殿下は、ここまでなさるというのか!
国王の寝所に侍る女人が初めての夜を迎える時、内官が大殿の寝所まで背負ってゆくのが通例となっている。内官は男根を切った時点で、〝男〟とは見なされなくなる。ゆえに、後宮にも自由に出入りし、妃たちの身の回りの御用も仰せつかる。
初夜を迎える側室を王の許まで送り届けるこの儀式もその一つであった。
だが、よりによって、何故、自分なのだろう。王は誰よりもよく朴内官の気持ちを知っているはずだ。そのために自らの生命をなげうってまで直訴に及んだ女を彼がどう思っているかなど、とうに承知しているだろう。
それなのに、その自分に惚れた女を背負って、恋仇である男の許に連れてゆけというのか―。
その場に擬然として立つ朴内官に、大殿内官が声高に命じる。
「朴内官、お妃さまをお連れ申せ」
彼は弾かれたように顔を上げ、清花を見つめた。そう、今夜―王に抱かれたら、清花は王の側妾となる。
自分はその橋渡しをしようというのだ。
「朴内官」
焦れたような内官の声に促され、朴内官は緩慢な動作で前に進み出た。黙ってしゃがみ込み、背を向ける。
「さあ、清花」
あれは張尚宮の声だろうか。なかなかゆこうとしない清花を急き立てているのだろう。眼を閉じた朴内官の背に重みがかかり、ふわりと甘い香りが漂った。
国王の褥に侍る女は、事前に湯浴みを済ませる。女官たちの手によって丹念に磨き上げられ、身体には香油をすり込まれる。