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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 朴内官は立ち止まり、背後の清花を気遣うように振り返った。
 妃を運ぶ内官もまた背負われる妃自身も口をきいてはならないしきたりとなっている。
 突如として立ち止まった朴内官に、張尚宮は不安そうなまなざしを向けていた。
 朴内官は背負った清花の身体を軽く揺すり、その華奢な背に回した手でトントンと何回か叩いた。
 それは男女の生々しい行為というよりは、あたかも大人がむずかる幼児をあやすような仕種だった。
 それでも、清花の震えは止まらない。彼は清花の心中を思うと、やり切れなかった。目隠しをされているだけに、余計に恐怖心が募っているに違いない。可哀想に、どれだけ怯え怖がっていることだろう。
 怯え震えている女を王の許に連れてゆく自分がまるで死刑執行人か女衒にでもなったような気がした。
 このまま清花を連れて誰もいないところに逃げたいとすら思った。
 再び歩き始めた朴内官を見て、張尚宮があからさまに安堵の表情を見せる。それにも彼は腹が立った。
 どれほど娘のように可愛がったとしても、所詮は王が望めば易々と清花を差し出すのか。当人があれほど厭がっているというのに。
 張尚宮も所詮は、我が身の保身しか頭にないということだ。
 その反面、やはり張尚宮を責めることが間違いなのも判っていた。国王はこの国で至高の存在であり、何人(なんびと)たりとも逆らえない。ましてや一介の尚宮ごときが配下の女官を差し出さなければ、張尚宮ばかりか、望まれた清花自身が厳罰を受けることになる。だからここそ、清花を差し出さねばならないのだ。

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