妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
大きな黒い瞳に、大粒の涙が宿っている。
「さ、お鎮まりあそばしませ」
女官長が前結びになった清花の夜着の紐の形を整え、もう一度、その背を押した。
清花の顔には、これから屠られる家畜のように悲痛な表情が浮かんでいる。漸く寝所に脚を踏み入れようとした彼女が背後を振り返った。
溢れた涙が白い頬をつたっている。
朴内官もまた熱いものが眼に滲む。
自分は何という情けない、不甲斐ない男なのだ。惚れた女をこうしてみすみす別の男の閨に送り込む片棒を担ぐのだから―。
いかにも残酷さを謳われる王らしい仕業だ。朴内官が惚れた女を寝所に召し出し、その上、朴内官にその女を背負わせて寝所まで連れてこさせるとは。
自分は女が厭がっているのを知りながら、それを止めるすべを持たず、ただ黙って見送るしかない。
あまりの哀しみで胸が張り裂けそうだ。
妃を運んだ内官は、そのまま夜通し、寝所の前で宿直をする。つまり、扉一枚隔てたすぐ傍で、清花が王に抱かれるのをすべて見届けねばならないということである。これほどに残酷な拷問があるだろうか。
王は最も効果的なやり方で、自分を罰したのだ。どのような酷い身体的な責め苦を与えるよりも、こうした方が朴内官を苦しめることができる―と、冷酷な王は知っていたのだ。
まるでひそかに想い合う恋人たちを隔てるかのように、唇を噛む朴内官の前で両開きの扉が無情にも音を立てて閉まった。
「さ、お鎮まりあそばしませ」
女官長が前結びになった清花の夜着の紐の形を整え、もう一度、その背を押した。
清花の顔には、これから屠られる家畜のように悲痛な表情が浮かんでいる。漸く寝所に脚を踏み入れようとした彼女が背後を振り返った。
溢れた涙が白い頬をつたっている。
朴内官もまた熱いものが眼に滲む。
自分は何という情けない、不甲斐ない男なのだ。惚れた女をこうしてみすみす別の男の閨に送り込む片棒を担ぐのだから―。
いかにも残酷さを謳われる王らしい仕業だ。朴内官が惚れた女を寝所に召し出し、その上、朴内官にその女を背負わせて寝所まで連れてこさせるとは。
自分は女が厭がっているのを知りながら、それを止めるすべを持たず、ただ黙って見送るしかない。
あまりの哀しみで胸が張り裂けそうだ。
妃を運んだ内官は、そのまま夜通し、寝所の前で宿直をする。つまり、扉一枚隔てたすぐ傍で、清花が王に抱かれるのをすべて見届けねばならないということである。これほどに残酷な拷問があるだろうか。
王は最も効果的なやり方で、自分を罰したのだ。どのような酷い身体的な責め苦を与えるよりも、こうした方が朴内官を苦しめることができる―と、冷酷な王は知っていたのだ。
まるでひそかに想い合う恋人たちを隔てるかのように、唇を噛む朴内官の前で両開きの扉が無情にも音を立てて閉まった。