妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
清花が寝所に入った時、既に王は褥の傍らに寛いだ様子で座っていた。
前には小卓が置かれ、様々な酒肴が揃っている。王は上機嫌なようで、手酌で呑み続け、既にほろ良い加減だ。
「さ、こちらへ参れ」
声をかけられては、行かないわけにはゆかない。
清花が少し距離を置いて座ると、王は心外だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「もそっと近くに参れ」
清花は言われるままに王の傍に座った。
王が紅く濁った眼で自分を見ている。まるで身体中を舐め回すような不躾な視線だが、その眼に嫌らしげな光が閃いているのを、清花は気付かない。
「まずは、固めの杯だ」
王は銚子を取り上げ、自分の盃に並々と注ぎ、ひと息に飲み干した。更に同じ盃に二杯目を注ぎ、おもむろに清花に差し出した。
「そなたも呑め」
差し出された盃を清花は両手で受け取り、恐る恐る口に運ぶ。
「どうした?」
訝しげに問う王に、清花はおどおどと応えた。
「私はお酒が飲めないのです」
「予の盃は受け取れぬと?」
王の眼が妖しい光を放ち始める。
「ち、違います。本当にお酒は駄目なのでございます」
泣きそうになった清花を見て、王は少し顔を緩めた。
「うむ、まあ、良かろう。大切な花嫁ゆえ、無理強いはすまい。酔わせてみたい気もするが」
何がおかしいのか、愉快そうに声を立てて笑う。癇に障る高笑いは、なかなか止まなかった。その姿はどう見ても正気とは思えない。
―怖い。
前には小卓が置かれ、様々な酒肴が揃っている。王は上機嫌なようで、手酌で呑み続け、既にほろ良い加減だ。
「さ、こちらへ参れ」
声をかけられては、行かないわけにはゆかない。
清花が少し距離を置いて座ると、王は心外だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「もそっと近くに参れ」
清花は言われるままに王の傍に座った。
王が紅く濁った眼で自分を見ている。まるで身体中を舐め回すような不躾な視線だが、その眼に嫌らしげな光が閃いているのを、清花は気付かない。
「まずは、固めの杯だ」
王は銚子を取り上げ、自分の盃に並々と注ぎ、ひと息に飲み干した。更に同じ盃に二杯目を注ぎ、おもむろに清花に差し出した。
「そなたも呑め」
差し出された盃を清花は両手で受け取り、恐る恐る口に運ぶ。
「どうした?」
訝しげに問う王に、清花はおどおどと応えた。
「私はお酒が飲めないのです」
「予の盃は受け取れぬと?」
王の眼が妖しい光を放ち始める。
「ち、違います。本当にお酒は駄目なのでございます」
泣きそうになった清花を見て、王は少し顔を緩めた。
「うむ、まあ、良かろう。大切な花嫁ゆえ、無理強いはすまい。酔わせてみたい気もするが」
何がおかしいのか、愉快そうに声を立てて笑う。癇に障る高笑いは、なかなか止まなかった。その姿はどう見ても正気とは思えない。
―怖い。