妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
まさに前代未聞の出来事に、女官長は露骨に眉を顰め、困惑を露わにする。後宮生活四十五年の間、王の寝所に召された側妾が逃げ出すなど、かつてなかったことだ。
「清花さま、お鎮まりあそばしませ」
女官長は慌てて清花を落ち着かせようと試みたが、清花は泣きじゃくるばかりで埒が明かない。
見かねた張尚宮が近寄り、清花の肩を優しく叩いた。
「どうしたのです?」
だが、訳など訊かずとも、すぐに判った。清花のなりはそれほどまでに酷いものだったからだ。
辛うじて上着は肩にかかっていたものの、その下の胸に巻いた布は解かれ、みずみずしい二つの乳房がはっきりと見えている。
胸の谷間や首筋、乳房には強く吸われた愛撫の跡がくっきりと刻みつけられていた。
チマの裾は捲れ上がっており、何とも痛々しい姿になっていた。
「とにかく、中にお戻りなさい。殿下がお待ちでしょう」
張尚宮に背を撫でられる間中も、清花は泣きじゃっくっているだけだ。
「いやです、もう、いや! あんなこと、いや」
駄々をこねる子どものように泣いてむずかる清花の眼に一人の男の貌が映じた。
―ねえ、朴内官、私を一緒に連れていってくれるでしょう? 私、もう、いや。あんな男の良いようにされるくらいなら、あなたと一緒に逝きたい。
―判った、一緒に逝こう。そなたのためなら、私もこの身など何も惜しくはない。
二人は無言の中に眼で語り合った。
清花が張尚宮に体当たりする。
ひっと声を上げて、張尚宮がよろけた。
その先にいるのは、恋しいあの男だ。
「清花さま、お鎮まりあそばしませ」
女官長は慌てて清花を落ち着かせようと試みたが、清花は泣きじゃくるばかりで埒が明かない。
見かねた張尚宮が近寄り、清花の肩を優しく叩いた。
「どうしたのです?」
だが、訳など訊かずとも、すぐに判った。清花のなりはそれほどまでに酷いものだったからだ。
辛うじて上着は肩にかかっていたものの、その下の胸に巻いた布は解かれ、みずみずしい二つの乳房がはっきりと見えている。
胸の谷間や首筋、乳房には強く吸われた愛撫の跡がくっきりと刻みつけられていた。
チマの裾は捲れ上がっており、何とも痛々しい姿になっていた。
「とにかく、中にお戻りなさい。殿下がお待ちでしょう」
張尚宮に背を撫でられる間中も、清花は泣きじゃっくっているだけだ。
「いやです、もう、いや! あんなこと、いや」
駄々をこねる子どものように泣いてむずかる清花の眼に一人の男の貌が映じた。
―ねえ、朴内官、私を一緒に連れていってくれるでしょう? 私、もう、いや。あんな男の良いようにされるくらいなら、あなたと一緒に逝きたい。
―判った、一緒に逝こう。そなたのためなら、私もこの身など何も惜しくはない。
二人は無言の中に眼で語り合った。
清花が張尚宮に体当たりする。
ひっと声を上げて、張尚宮がよろけた。
その先にいるのは、恋しいあの男だ。