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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 清花と朴内官は走りに走った。
 二人とも宮殿内の配置は知り尽くしている。殊に清花は後宮内しか詳しくはないが、朴内官は宮殿中のことなら何でも心得ていたし、どの時間にどの場所が警備が手薄になるかまで頭に入っていた。
 二人は殿舎と殿舎の間を複雑に貫く通路を駆け抜けた。途中で義禁府の兵たちが物々しい様子で走ってゆくのに何度か遭遇したが、その都度、建物の影に身を潜め、彼等が通り過ぎるのを待った。
 そんなことを何度繰り返しただろう。
 広大な宮殿の中でも滅多と人の来ない場所まで辿り着き、漸く人心地つくことができた。
 清花は荒い息を吐きながら、その場にくずおれる。
「大丈夫か?」
 朴内官もまた肩を上下させながら、その隣に座った。
「私は大丈夫」
 清花は精一杯の笑顔を浮かべて見せる。
 朴内官の気遣うような視線が心に痛い。
「済まない。こんなことになるのなら、いっそのこと最初から、そなたを連れて逃げておけば良かった」
 そうすれば、こんな怖い目に遭わせることもなかったのにと、彼は労るように清花の髪を撫でる。
 清花を見つめていた朴内官が慌てて眼を背け、清花はハッとした。
 今の自分のあられもない格好に改めて気付いたのだ。細い身体の割には豊満な乳房が剥き出しになり、夜目にも眩しい。
 清花は無意識の中に衿許をかき合わせた。
「私なら本当に大丈夫よ、何もなかったから」
 自分を見つめる朴内官の瞳には憐憫の情が浮かんでいた―。 

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