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妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 嫌われたくないという想いが清花の中に湧き上がった。確かに王に身体を弄ばれたのは事実だが、正確にいえば、抱かれたわけではない。
「ね、信じて、本当に何もされなかったの」
 懸命に訴える清花の身体がふわりと抱き寄せられた。
「信じるよ、そなたの言うことを私は信じる」
 朴内官は必死に自分の身の潔白を訴える清花を可愛いとも不憫だとも思った。
 何故、王はここまで酷い仕打ちをこの娘にしたのだろう。女に惚れるのと力づくで思い通りにして所有するのは根本的に訳が違う。
 それほどまでに好きなら、何故、もっと優しくてやらない? 大切にしてやろうとしない?
 自分は男根を切り、男性としての機能は失ってしまったけれど、それでも同じ男として、王の気持ちは到底理解できなかった。
 何より、王の清花への執着は度を越えている。
「清花」
 初めて恋しい男から名を呼ばれ、清花の胸が震える。貌が近づいてきて、二人はごく自然に唇を重ねた。鳥の羽がかすめるようなごく軽い口づけは、朴内官が清花を気遣ってくれているのが判る。
 王に陵辱されそうになった彼女の心の傷を思い、これ以上、怯えさせまいとしているのだ。
「私なら平気、だから、もっと強く抱いて」
 清花が見上げると、朴内官は彼女をかき抱く手に力を込め、烈しい口づけを繰り返した。
 自分は一生忘れないだろう。この男のすべての想いがこもったような、この情熱的な口づけを。
「これから、どこへ行こう?」
 唇が離れた後、朴内官が囁く。
「どこでも良いわ。あなたが望むところなら、私は、どこにでもついてゆく」

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