妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】
第3章 忍
清花も吐息のような声で応える。
「ならば、都からできるだけ離れた方が良いな。地方暮らしでも構わないか?」
「ええ、私はあなたと違って、元々、両班の娘ではないもの。どこへいったって、庶民の暮らしなんて似たようなものでしょう」
「実家に寄らなくて良いのか?」
「生きていれば、きっと、また母にも逢えるわ。だけど、一つだけ残念なことがあるの」
問いかけるような朴内官の眼に、清花は微笑みで応えた。
「あの婚礼衣装を取りに帰れないからよ」
「―」
朴内官が口をつぐむ。その整った面に淡い微笑がひろがった。
「二人で一生懸命に働こう。死に物狂いで働いて、お金を貯めて、そなたにまた新しい婚礼衣装を買ってやるよ」
清花は少女のようにはしゃぎ、歓声を上げた。
「嬉しい。お母さんが私に作ってくれたような桜色の布が良いわ。陽に当たるときらきらと光って、それはもう綺麗なのよ。まるで虹の糸で織りだしたような光り輝く布地なの」
「虹で紡いだ糸か、さぞ綺麗だろうな」
「この世のものとも思えないほど、きれいなの」
「じゃあ、私たちに娘が生まれたら、その子に七色に光る嫁入り衣装を着せよう。清花のお母さんがまた同じようなものを縫ってくれるさ。この花嫁衣装は、おばあさんが縫って、お母さんがお父さんと結婚するときに着たんだよって、二人で教えてやるんだ」
「―素敵ね、とっても素敵」
いつしか清花の頬を涙がつたっていた。
これからもこの男とずっと一緒に過ごしてゆくはずなのに、どうして、私たちは、こんな風に、まるで叶わない夢を語るように熱に浮かされた口調で未来を語るのだろう。
「ならば、都からできるだけ離れた方が良いな。地方暮らしでも構わないか?」
「ええ、私はあなたと違って、元々、両班の娘ではないもの。どこへいったって、庶民の暮らしなんて似たようなものでしょう」
「実家に寄らなくて良いのか?」
「生きていれば、きっと、また母にも逢えるわ。だけど、一つだけ残念なことがあるの」
問いかけるような朴内官の眼に、清花は微笑みで応えた。
「あの婚礼衣装を取りに帰れないからよ」
「―」
朴内官が口をつぐむ。その整った面に淡い微笑がひろがった。
「二人で一生懸命に働こう。死に物狂いで働いて、お金を貯めて、そなたにまた新しい婚礼衣装を買ってやるよ」
清花は少女のようにはしゃぎ、歓声を上げた。
「嬉しい。お母さんが私に作ってくれたような桜色の布が良いわ。陽に当たるときらきらと光って、それはもう綺麗なのよ。まるで虹の糸で織りだしたような光り輝く布地なの」
「虹で紡いだ糸か、さぞ綺麗だろうな」
「この世のものとも思えないほど、きれいなの」
「じゃあ、私たちに娘が生まれたら、その子に七色に光る嫁入り衣装を着せよう。清花のお母さんがまた同じようなものを縫ってくれるさ。この花嫁衣装は、おばあさんが縫って、お母さんがお父さんと結婚するときに着たんだよって、二人で教えてやるんだ」
「―素敵ね、とっても素敵」
いつしか清花の頬を涙がつたっていた。
これからもこの男とずっと一緒に過ごしてゆくはずなのに、どうして、私たちは、こんな風に、まるで叶わない夢を語るように熱に浮かされた口調で未来を語るのだろう。