テキストサイズ

妖(あや)しの月に~光と闇の王~【第二部 光の王】

第3章 忍

 これほどの兵がいたのかと眼を疑いたくなるほどの人数で、しかも皆が厳重に武装している。
「全っく、たった二人、しかも女連れを捕らえるだけのために、それだけの数が必要なのか?」
 朴内官が挑むように言うと、義禁府長が舌打ちした。
「強がっておれるのも今の中よ。朴内官」
 そのときだった。
 それまで騒々しかった兵たちが水を打ったように静まり返った。
 数十人はいる兵たちをかき分けるようにして、一人の男がゆっくりと歩いてきた。
 兵たちがごく自然に二つに分かれ、道ができる。その道を男は実に余裕たっぷりの態度でやってくる。
「朴内官、予のものを奪い去ろうとした罪は許しがたいが、今、ここで謝罪の意を表し、奪い去ったものを返すならば、これ以上の罪は問うまい。生命だけは助けてやるゆえ、宮殿を出て、いずこへなりと去るが良い」
 王のぞんざいな物言いに、朴内官は毅然として断じた。
「断る」
 朴内官は静謐な声で続けた。
「国王殿下、私とあなたでは、女の愛し方があまりにも違いすぎます。私は、あなたのように愛する女を檻に閉じ込めようとは思わないし、権力や暴力で自分のものにしようとも思わない。そんなことをしても、結局、手に入るのは女の身体だけだ」
 王が嘲笑うように口角を笑みの形に引き上げた。
「フン、子種も持たぬ鼓(コ)子(ジヤ)(内官を蔑んでいう呼び方)の分際で、女を愛するも何もなかろう」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ