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精霊と共に 歩睦の物語

第10章 元に戻れるものは、戻して…

 歩睦が目を覚めると、決勝戦直前だった。

「土居!次は南中の北沢だ。気合を入れろ!」
 監督は上機嫌で歩睦の肩をバンバン叩く。

「はい…」
 まだ、状況を把握していない歩睦は、肩を触りながら、正座して手ぬぐいを見ている。

(試合…やり直し…)
 歩睦は、北沢とのサッキの試合を思い出そうとするが、霞がかかっている。

(僕の中の記憶も曖昧だな…その方がいい…全力でやろう)

「大丈夫ぅ?」
 歩睦の後ろに楓が立つ。

「はい…」
 歩睦は振向かず返事をする。

「大丈夫には見えないわ」
 楓が歩睦の手ぬぐいを取って、歩睦の頭にかぶせる。

「あ…ありがとうございます…」

「私の愛をたくさん纏わしてやる」
 楓がウフフと笑ってしっかり縛り上げる。

「…楓先輩…一ついいですか?」

「ん?なに?」

「北沢くんには記憶が残ってますか?」

「残ってないと思うよ…精霊石が歩睦の『きちんと決着を』の願いを叶えてくれたから!」
 楓の明るい声で言う。

「そうですか…」
 背中越しに聞く歩睦は目を閉じる。

「はい。OK!歩睦ちゃん…決勝戦頑張ってね」
 楓が、歩睦の背中をポンポンと軽く叩く。

「はい」
 ふーっと一つ息を整え、目を開く歩睦。


 いつもの穏やかな顔つきは、試合をする気合が入ったキリッとした表情になっていた。

 手ぬぐいを微調整して面をつけて立ち上がる歩睦。

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