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精霊と共に 歩睦の物語

第3章 せっかくの休みなのに

「お茶、冷たいのがいいよね」
 紅葉は、給湯室の冷蔵庫からお茶を出してついで持ってくる。

「あ、すいません」
 お茶の入ったグラスを貰う。

 紅葉と歩睦は、たくさんのダンボールの詰まれた部屋の隅でお茶を飲む。
 紅葉の足元にはワーンがあごをつけて寝ていた。

「あの、紅葉さんは楓先輩の従兄弟さんだと聞きました」
 沈黙が苦しくなった、歩睦が話しかける。

「そうよ」

「従兄弟さんにこんな事聞くの変ですけど、楓先輩…最近変なんですが、なんかありましたか?」
 歩睦が、ちょっと心配している。

「楓ちゃんが変?」

「はい。何かにつけて、ついてくるし。すぐ、体触るし、あのままだと、『そっち系』に間違われるというかぁ」

「迷惑?」

「いや、迷惑っていうわけじゃ…」
 どう表現しようか、考えている歩睦を見て紅葉は笑顔になる。

「ふふ、ごめんね。楓ちゃんは、ちょっと過保護でしょ。大事なものや、心配なものを手元に置きたがる…癖…癖があるのよ」
 紅葉はお茶をゆっくり飲む。

 その時、ピピィっと携帯がなる。

「あ、ごめんない」
 携帯を見ると、涼からのメールだった。

 ワーンが耳をピクピクさせる。

「涼が来たみたいなんで、これで、失礼します」
 歩睦は一礼して、部屋から出る。


「一緒に行って、なんだか胸騒ぎがする…」
 ワーンの頭を撫ぜると首輪をリードからはずす。

  ワン!
 ワーンは歩睦の後を追う。

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