月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
新しい町
鼻腔をくすぐる何とも良い匂いは、余計に空腹感を増すようだ。それもそのはず、通りの両脇にズラリと並んだ露店からは道行く人を誘惑するかのように、香ばしい匂いが漂ってくる。
思わず、ふらっとその中の一つにいざなわれるようにして歩き出した香花(ヒヤンファ)の肩が背後からグッと力を込めて掴まれた。
「おい」
それでもまだふらふらと前へ進もうとしている少女の手をグイと掴み、光王(カンワン)は殆ど怒声に近い声を上げた。
「おい、一体、どういうつもりなんだ?」
そこで香花は漸く我に返り、振り向く。
「どうしたのよ、光王? そんなに今にも怒り出しそうな怖い顔して」
光王は、これ見よがしに盛大な溜息をついて見せた。
「お前って、どうしてそこまで見事にその場の空気が読めないんだ? 俺は今にも怒り出しそうなんじゃなくて、本当に怒ってるんだよ」
「何で、怒ってるの、っていうか、怒る必要があるの?」
あくまでものんびりと間延びした香花の声に、光王は明らかに苛立ちを滲ませた声音で応える。
「あのな」
言いかけ、思わず額を片手で押さえ、小さく呻く。
「全っく、お前って奴は」
しばらく低い声で悪態をついていた彼はやがて諦めたかのように、小さくかぶりを振った。
鼻腔をくすぐる何とも良い匂いは、余計に空腹感を増すようだ。それもそのはず、通りの両脇にズラリと並んだ露店からは道行く人を誘惑するかのように、香ばしい匂いが漂ってくる。
思わず、ふらっとその中の一つにいざなわれるようにして歩き出した香花(ヒヤンファ)の肩が背後からグッと力を込めて掴まれた。
「おい」
それでもまだふらふらと前へ進もうとしている少女の手をグイと掴み、光王(カンワン)は殆ど怒声に近い声を上げた。
「おい、一体、どういうつもりなんだ?」
そこで香花は漸く我に返り、振り向く。
「どうしたのよ、光王? そんなに今にも怒り出しそうな怖い顔して」
光王は、これ見よがしに盛大な溜息をついて見せた。
「お前って、どうしてそこまで見事にその場の空気が読めないんだ? 俺は今にも怒り出しそうなんじゃなくて、本当に怒ってるんだよ」
「何で、怒ってるの、っていうか、怒る必要があるの?」
あくまでものんびりと間延びした香花の声に、光王は明らかに苛立ちを滲ませた声音で応える。
「あのな」
言いかけ、思わず額を片手で押さえ、小さく呻く。
「全っく、お前って奴は」
しばらく低い声で悪態をついていた彼はやがて諦めたかのように、小さくかぶりを振った。