月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
あの梅の樹も燃えている。
知勇と二人で根許に座り、咲き始めたばかりの梅の香を惜しんだ夜。月の美しいまだ浅い春の宵だった。
何もかもが、想い出が燃えて、なくなってゆく。
明善だけではない、誰もが自分を置いて逝ってしまう。
もう、いや。何も失いたくない。
いいえ、まだ知勇さまが死んだとは決まっていない。
知勇の優しい笑顔が脳裡をかすめる。
あの方は、明善さまによく似た孤独で淋しげな瞳をしたあの方はご無事だろうか。
意識が遠くなってゆく。
「香花、香花!!」
光王の焦った声が聞こえ、意識がゆっくりと闇に呑み込まれる。
完全に意識を失った香花の小柄な身体は、逞しい腕に抱き止められた。
香花は込み上げてきた涙をそっと眼裏で乾かした。
かつてこの場所に、壮麗な使道の屋敷があったとは、到底思えないほど無惨な有様だった。
知勇と二人で根許に座り、咲き始めたばかりの梅の香を惜しんだ夜。月の美しいまだ浅い春の宵だった。
何もかもが、想い出が燃えて、なくなってゆく。
明善だけではない、誰もが自分を置いて逝ってしまう。
もう、いや。何も失いたくない。
いいえ、まだ知勇さまが死んだとは決まっていない。
知勇の優しい笑顔が脳裡をかすめる。
あの方は、明善さまによく似た孤独で淋しげな瞳をしたあの方はご無事だろうか。
意識が遠くなってゆく。
「香花、香花!!」
光王の焦った声が聞こえ、意識がゆっくりと闇に呑み込まれる。
完全に意識を失った香花の小柄な身体は、逞しい腕に抱き止められた。
香花は込み上げてきた涙をそっと眼裏で乾かした。
かつてこの場所に、壮麗な使道の屋敷があったとは、到底思えないほど無惨な有様だった。
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