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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀

 むろん、少し離れた場所にいる香花には、声を低めたそのやりとりまでは届いてこない。
 両班の従者が親方を急かしている。うなだれた昌福が従者に伴われ、輿の上でにやついている男の方に歩いていこうとするまさにそのときであった。
「待って」
 香花が叫ぶと、予期せぬ出来事を眺めていた人々がギョッとして振り返った。
 大勢の視線を集めても、香花はいっかな怯まない。
「あの馬鹿、また余計なことを」
 傍らの光王が歯噛みした。止めようとするより先に、香花はもう歩き出している。

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