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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 光王のあの言葉。
 ミリョンを見たときのあの愕き。
 もしかしたら。いや、恐らくミリョンは光王の昔好きだったという女に似ているのではないか。
 ミリョンの貌を改めて思い出してみる。
 美しいというのではないが、ふっくらとした優しげな面立ちは人柄の良さをよく表していて、何より膚が透き通るように綺麗だった。内らの輝きがミリョンの平凡な容貌を十分魅力的に見せていて、男が好む類の女だと香花にも好もしく思えた。
 光王がかつて愛した女は、あんな風なひとだったのだろうか。香花のように泣き虫でもなく、すぐにむくれたりもしない大人の女。
 そこまで考えて、香花はハッと我に返る。
 自分は何を気にしているのだろう? 
 光王と自分はただの同居人なのだから、彼の過去を―光王が昔、誰を愛そうが、好きになろうが―わざわざ気にする必要はないはずだ。なのに、何故、ここまで光王の昔に拘ってしまう?
 香花は自分で自分の気持ちが判らない。
 香花が自分の気持ちを持て余しかねていたその時、背後の扉がかすかに軋んだ。

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