月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第14章 第4話【尹(ユン)家の娘】・夢見る老婦人
照りつけてくる日差しはじりじりとうなじを灼き、真夏のものと大差ないが、時折、身の傍を駆け抜けてゆく風はひんやりとしていて、季節が既に夏ではないと教えてくれるようだ。香花は涼しい風に吹かれ、咲き誇る薔薇の大群にいっとき我を忘れて見蕩れた。
そのときだった。
薔薇の茂った向こう側から、カサリと小さな物音が聞こえた。たいした自慢にはならないけれど、香花は聴覚が尋常でなく鋭い。普通なら聞き取れないような微細な音でも、聞き逃さない。この音も大抵の者ならば、気にも止めないほどの音だった。
香花がピクリとして全身に緊張を漲らせる。繁みの向こうから、ゆっくりと老婦人が姿を現した。右脚が不自由なのか、少し引きずっているようだ。杖をつきながら、香花の方に向かってくる。
香花はホッとして力を抜いた。相手が老いた女人だからというわけではなく、老婦人から滲み出す雰囲気が極めて穏やかで優しいものだったからだ。
そのときだった。
薔薇の茂った向こう側から、カサリと小さな物音が聞こえた。たいした自慢にはならないけれど、香花は聴覚が尋常でなく鋭い。普通なら聞き取れないような微細な音でも、聞き逃さない。この音も大抵の者ならば、気にも止めないほどの音だった。
香花がピクリとして全身に緊張を漲らせる。繁みの向こうから、ゆっくりと老婦人が姿を現した。右脚が不自由なのか、少し引きずっているようだ。杖をつきながら、香花の方に向かってくる。
香花はホッとして力を抜いた。相手が老いた女人だからというわけではなく、老婦人から滲み出す雰囲気が極めて穏やかで優しいものだったからだ。