月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第14章 第4話【尹(ユン)家の娘】・夢見る老婦人
そのついでと言っては何だが、香花は、時々、少し脚を伸ばして隣村まで行った。隣村の入り口付近に大きなお屋敷があり、その庭が実に見事なのだ。もちろん、香花は門前からそっと中の様子を窺い見るしかできない。
県監を務める尹徳義の屋敷なのは判っているけれど、不思議なことに、その屋敷の門はいつも開かれている。庭先なら誰が出入りしようと、門番に咎められない。徳義は既に五十の坂を越えており、温順で慈悲深い人柄は近隣の人々から慕われている。門が常に開かれているのも、徳義の意向によるものであるらしかった。
香花は流石に庭内まで入り込むことはせず、門の前からそっと庭を覗き込むくらいのものだ。庭を少し入っただけの場所に、見事な薔薇の一群が植わっている。薄紅色の大輪の薔薇が数十本と群れ咲いている光景は圧巻としか言いようがない。
この庭は当主である徳義自身が丹精しているものだとかで、徳義の何よりの自慢だと評判である。徳義もまたその夫人もこの薔薇をあたかも我が子のように愛しんでいるのだ。
今日も香花は門前に佇み、そっと庭を覗き込む。初秋を迎え、薔薇の花は美しく咲き匂っている。眺めているだけで、心が癒やされそうだ。
県監を務める尹徳義の屋敷なのは判っているけれど、不思議なことに、その屋敷の門はいつも開かれている。庭先なら誰が出入りしようと、門番に咎められない。徳義は既に五十の坂を越えており、温順で慈悲深い人柄は近隣の人々から慕われている。門が常に開かれているのも、徳義の意向によるものであるらしかった。
香花は流石に庭内まで入り込むことはせず、門の前からそっと庭を覗き込むくらいのものだ。庭を少し入っただけの場所に、見事な薔薇の一群が植わっている。薄紅色の大輪の薔薇が数十本と群れ咲いている光景は圧巻としか言いようがない。
この庭は当主である徳義自身が丹精しているものだとかで、徳義の何よりの自慢だと評判である。徳義もまたその夫人もこの薔薇をあたかも我が子のように愛しんでいるのだ。
今日も香花は門前に佇み、そっと庭を覗き込む。初秋を迎え、薔薇の花は美しく咲き匂っている。眺めているだけで、心が癒やされそうだ。