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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 不幸な母

 その日の夕刻、香花は光王と差し向かいでささやかな夕餉の膳を囲んでいた。
 今夜は光王の好物のチゲである。チゲは朝鮮の鍋料理だ。
 香花は今日の出来事を張り切って光王に報告する。これはもう毎日の恒例行事のようになっていて、町から行商を終えて帰宅した光王を相手に、香花は殆ど喋りっ放しだ。
 まずは隣村の県監の屋敷で美しい薔薇を見たことから始まり、話は移ってゆく。
「それでね、ウォングってば、すっかり可愛くなってね。もうちゃんと寝返りもできるのよ」
 香花は朴家の赤ン坊の成長ぶりについて、興奮した面持ちで光王に報告している真っ最中である。
「奥さんも〝いつも済みません 〟って恐縮してた」
 香花はいつも卵を少しだけ大めに持ってゆく。むろん、その増やした分の代金は取らない。そのことを、萬安の妻はいつも感謝していた。

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