月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第15章 不幸な母
数日後の昼下がり、ユン徳義は県の役所に出向く前に、妻の部屋に立ち寄った。これは彼が出仕する前の日課でもある。殊に一人娘が先立ってからは、欠かしたことがない。
妻理蓮には苦労をかけてきた。彼女自身も名門の両班家の息女として産まれ育ち、同じ家格のユン氏に嫁いできたが、自分に人並みの出世欲がないばかりに、肩身の狭い想いやしなくても良い気苦労をさせたと思っている。
徳義には、若い頃から俗世での立身には全くと言って良いほど興味がなかった。中央政界で華々しく活躍する学友の噂を聞いても、格別羨ましいと思ったことはない。徳義が科挙に合格したのは、今から数えれば三十八年前になる。当時、二十歳の徳義は初めての挑戦で合格、しかもその年の及第者たちの中では群を抜いた成績で首席合格を果たした。当時の国王殿下の御前で特に盃を賜と剣を賜るという栄誉を得たのは今も語りぐさである。
当然ながら、徳義はこれ以降、出世街道をひた走るはずであった。彼自身が望めば、臣下としては最高の地位―領議政の座も手に入れられただろう。
妻理蓮には苦労をかけてきた。彼女自身も名門の両班家の息女として産まれ育ち、同じ家格のユン氏に嫁いできたが、自分に人並みの出世欲がないばかりに、肩身の狭い想いやしなくても良い気苦労をさせたと思っている。
徳義には、若い頃から俗世での立身には全くと言って良いほど興味がなかった。中央政界で華々しく活躍する学友の噂を聞いても、格別羨ましいと思ったことはない。徳義が科挙に合格したのは、今から数えれば三十八年前になる。当時、二十歳の徳義は初めての挑戦で合格、しかもその年の及第者たちの中では群を抜いた成績で首席合格を果たした。当時の国王殿下の御前で特に盃を賜と剣を賜るという栄誉を得たのは今も語りぐさである。
当然ながら、徳義はこれ以降、出世街道をひた走るはずであった。彼自身が望めば、臣下としては最高の地位―領議政の座も手に入れられただろう。