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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第16章 夢と現の狭間

 それにしても、あの娘(素花)(花)のために新しい衣類や宝飾品を買い求めているときの理蓮は、実に生き生きとしていた。徳義ですら、理蓮の病がもう治ったのだと、妻は娘を喪ったという大きな痛手を乗り越えたのだと信じてしまいそうになったほどの回復ぶりを見せた。
 今の理蓮の精神の均衡はごく危ういものだ。あの素花に似た娘の存在の上に成り立っているようなものなのだから。
 何か良からぬことが起きなければ良いが―。
 徳義は、見る影もなく痩せ細った妻の身体をかき抱き、強い危機感を抱(いだ)いていた。

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