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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第18章 第5話【半月】・疑惑

 シニョンの声に誘われるように顔を上げると、皺だらけの手のひらには小さな鏡が載っていた。丁度、大人の手のひらと同じ大きさほどで、花の形を象っているように見える。
「触っても良いぞ?」
 香花は恐る恐る鏡を手に取った。よく磨き込まれた質の良い丸鏡には、香花の顔が映っている。裏面に花の意匠が施されているのだ。
 下方に飾りがついていて、小さな玉が結びつけられている。どうやら、琥珀のようだ。
「綺麗」
 思わず溜息を洩らした香花を見て、シニョンが笑った。
「昨日、仕入れたばかりの品じゃ。今、漢陽では、この鏡が大流行しておるらしい。店に大量に入れても、若い娘たちがこぞって買ってゆくから、直に売り切れると荷を運んできた仲買人も言っておった。都で流行るものは、この町でも少し遅れて流行るから、儂も先を見越して幾らか店に置くことにしてな。どうだ、お前の兄さんも小間物売りだが、ここまで最新流行の品は手に入れていないだろう」
 少し自慢げな口調で言うと、シニョンは仙人を彷彿とさせる白い顎髭をおもむろに撫でる。 

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