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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第18章 第5話【半月】・疑惑

 香花がコクコクと頷くと、シニョンは破顔した。
「それはお前にやろう」
「でも、これって、高いんでしょ?」
 香花は、きっぱりと言った。
「大切な商品を貰うわけにはゆかないわ。私、買わせて貰うから」
 シニョンが笑いながら手を振る。
「要らん、要らん。銭など端(はな)から取るつもりで、見せたわけではない。若い娘たち相手に売るつもりの品だから、そこは工夫して値はつり上げないように、材料も手頃なもので作ってある。お前が思うほど、実は高価なものではないのだ」
「―本当に良いの?」
「ああ、持ってけ」
 シニョンが頷くと、香花は〝嬉しい〟と鏡を胸に抱きしめた。
「香花もやはり、若い娘だな。身を飾るものに興味がないようでも、嬉しいか」
 香花も人並みに綺麗なものに憧れはある。しかし、今の暮らしに、身を飾る装飾品を買うゆとりはない。着ているものだって、木綿の何の飾りもない簡素なチマチョゴリだ。色こそ、若い娘らしい明るい色目だけれど、どう見ても両班の息女が纏うものではない。

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