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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第19章 訪問者

 働きが悪いと叱られ、飯を抜かれ、更には撲る蹴るの折檻を受け、小さな身体はいつも痣だらけ傷だらけだった。妓楼の女将だけでなく、妓生や男衆(下男・用心棒)たちまでからも馬鹿にされ、酷い扱いを受ける日々の中、優しさや情けをかけてくれる大人は誰もいなかった。
 光王は、そんな境遇の中で育ったのだ。それは、下級とはいえ両班の端くれの家門に生まれ、両親からの愛情を受けて育った香花には想像を絶するものだ。
 ついにたまりかねて妓楼を飛び出したのは、光王が六歳のときだ。以来、光王は掏摸やかっぱらいと生きるためならば何でもしてきた。同じような境遇の孤児たちが一人、二人と集まり、いつしかできた集まりが後の盗賊集団〝光の王〟の元となった。
 ゆえに、光王は、両班というこの国では尊崇を受けるべき特権階級をひたすら憎悪している。

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