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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第19章 訪問者

 光王が〝義賊光王〟となったのにも、彼の薄幸な生い立ちがその背景にあった。
 妓生であった母の許に通っていた彼の父は当時、中流貴族の跡取りだった。二人の仲は両班たちの間でも有名になるほど深く、母の方も男の心を信じて疑っていなかった。だが、男は女の懐妊を知るや、ふっつりと訪れを絶った。女はたった一人で子を生み、懸命に育てたが、子どもが四つの冬、酷使した身体に取り憑いた病のせいで儚く亡くなった。
 子どもはその後、母が働いていた妓楼にいた。とはいっても、親を亡くした幼児の扱いなど、酷いものだった。三度の食事は、顔が映るような薄い粥だけで、それすらもろくに与えては貰えなかった。使い走りから水汲み、薪割、掃除と、まだ四つの子には手に負えないような雑用までを次々に言いつけられ、挙げ句には〝役立たず〟と罵声を浴びることになる。

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