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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第19章 訪問者

 あの男と光王は紛れもない父子だったのだから。
 あの男の、光王の父親だという男の双眸は、けして曇ってはいなかった。傲慢さも見栄もなく、ただ穏やかな川面のような静けさを映しているだけだった。
 恐らく、あの人はこの長い年月を深い悔恨の中で生きてきたに違いない。我が身が若き日に犯した過ちを悔いて悔いて、それでも諦められなくて、もがいた。そうやって果てのない葛藤を続けて漸く辿り着いたのが、〝失ったものは二度と取り返せない〟という深い諦めの境地だったのではないか。
 それは多分、悟りにも似た想いであったろう。どれほど後悔してみても、一度手放してしまったものは二度と取り戻せない。この世のあまりにも残酷すぎる真理を突きつけられ、身に滲みて知ったはずだ。
 それで十分すぎる罰を受けた―とまでは言えないかもしれないが、光王の父もまた別の意味で、苦しみながら、この長い日々を重ねてきたのだともいえる。

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