
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第19章 訪問者
光王が背を向け続けるばかりでは、状況は何の進展もない。かと言って、この問題に関して、光王が香花の言葉に少しでも耳を傾けてくれるとも思えない―。
頭上高くで、鳥の声が甲高く響く。その声にいざなわれ、香花の意識は現実に戻った。
立ち止まった香花の視線の先に、小さな一体の石仏があった。石榴の樹の間にひっそりと佇む石像は風化して定かではないが、どうやら観音像を彫ったもののようだ。
マンアンの家に行くときは大抵この道を通るから、香花はいつも立ち止まって手を合わせてゆくのが日課になっている。
「南無観世音菩薩」
合掌して小さく唱えると、香花は急ぎ脚になった。マンアンの家に卵を届けて、できれば昼前には家に帰りたい。というのも、光王の父がいつまた訪ねてくるか判らないからだ。
むろん警戒しているのではなく、そのまま帰らせるに忍びないからであった。町に行商に出ている光王は勝手なことをしたと怒るに違いないだろうが、香花としては家に上がって貰って、白湯でも出したい。
頭上高くで、鳥の声が甲高く響く。その声にいざなわれ、香花の意識は現実に戻った。
立ち止まった香花の視線の先に、小さな一体の石仏があった。石榴の樹の間にひっそりと佇む石像は風化して定かではないが、どうやら観音像を彫ったもののようだ。
マンアンの家に行くときは大抵この道を通るから、香花はいつも立ち止まって手を合わせてゆくのが日課になっている。
「南無観世音菩薩」
合掌して小さく唱えると、香花は急ぎ脚になった。マンアンの家に卵を届けて、できれば昼前には家に帰りたい。というのも、光王の父がいつまた訪ねてくるか判らないからだ。
むろん警戒しているのではなく、そのまま帰らせるに忍びないからであった。町に行商に出ている光王は勝手なことをしたと怒るに違いないだろうが、香花としては家に上がって貰って、白湯でも出したい。
